ぶぅぶぅ

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1/10/2024, 12:45:09 PM

 ツバサは子どもの頃、10年後の自分の想像など全く出来なかった。10年先のことより、明日も友達と遊べるのかどうかの方が大切だからだ。それなのに、学校の先生は、10年後の自分に手紙を書く事を宿題とした。ツバサはめんどくさくて一文で済ませた。
「今、生きてますか?」

 そうして十数年後の今。ツバサはすっかり古くなったその一文を見やると、ふっと笑った。
「僕らしいな。全然変わってないや」

1/9/2024, 2:15:50 PM

 高いビルとビルの隙間から、三日月がのぞいている。ふう子は眉間にシワを寄せて三日月をしばらく見つめていたが、諦めて視線をそらした。
「ダメだわ」
 不機嫌そうにふう子がぼやいた。
「どうしたの?」
 ふう子の隣にいた、みくもは首をかしげた。するとふう子は口を尖らせて答えた。
「視力が落ちたのよ。だからか三日月が三つも折り重なってぼやけて見えるの。前はこんなことなかったのに」
 みくもはくすっと笑った。
「良いじゃない。私なんてメガネとったら三日月がどこにあるのかすら、わかんなくなっちゃうよ」

1/8/2024, 2:29:57 AM

 車のエンジンで雪が溶けているから大丈夫だと思い、小走りで道路横断したら見事にずっこけた。
 よくよく見てみると雪が溶けた後、氷が張っているではないか。
 近くの歩行者、それから車のドライバーにも転けた瞬間を思いっきり見られてしまっただろう。
 恥ずかしい。最悪だ。

1/6/2024, 4:18:40 PM


 「あれ、おっさんだよね? 久しぶり!」
 久美は私を見つけると目をキラキラさせて駆け寄ってきた。久美と私は長年の友人なのだが、彼女にはちょっと変わったところがある。
「明日休み? せっかくだから何処かに遊びに行かない?」
 休みじゃないと言いかけて、私は口をつぐんだ。そういえば仕事ばかりで最近誰とも会っていなかった。
「うん、いいよ」
 私がうなづくと久美は満面の笑みを見せた。
「やった! じゃあ、どこに行く? おっさんの行きたいところでいいよ!」
 久美が黄色い声出すと、通りすがりの人の視線が痛い。だが、久美自身はちっとも気にならないらしい。
「あとで連絡する」
 そう伝えて久美と別れると、家路に向かった。

 久美と出会った頃のことはよく覚えている。彼女に悪気はないのだが、少し人を不快にさせてしまうところがあるから不安だ。
 私の名前は小野寺詩織という。学生の頃、久美によって私のあだ名は『おっさん』になった。
 当時の私はそのあだ名が嫌だった。女なのに何故『おっさん』なのか。それで久美に理由を問いただすと、彼女はあっけらかんと答えた。
「へ? だって、渡辺さんのこと『わっさん』って呼ぶでしょ。馬場さんは『ばっさん』だし」
 まるで当たり前のように言われて、私は何も言えなくなった。久美とはそもそもの考え方、思考回路が違うのだ。まぁ、言ってしまえばそこが久美の面白いところでもあるのだが。
「さてと。明日、どうするかな」

1/6/2024, 12:03:56 AM

「天気の良い日に限って、出かける用事が全然無いのよね」
 ため息混じりに瑠美は呟くと、冷たく縮こまった洗濯物を一つ一つ広げて干していく。

「ねぇ見て。すごいよ。雲がうさぎさんみたい」
「ほんとだ」
 家のそばにある公園の辺りから、子供たちの甲高い声がする。
 瑠美は空を見やったが、すぐに視線を戻した。
 雲のうさぎさんよりも、早く洗濯物を終わらせて部屋に戻り、こたつに入って暖かいコーヒーを飲みたいからだ。

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