「あれ、おっさんだよね? 久しぶり!」
久美は私を見つけると目をキラキラさせて駆け寄ってきた。久美と私は長年の友人なのだが、彼女にはちょっと変わったところがある。
「明日休み? せっかくだから何処かに遊びに行かない?」
休みじゃないと言いかけて、私は口をつぐんだ。そういえば仕事ばかりで最近誰とも会っていなかった。
「うん、いいよ」
私がうなづくと久美は満面の笑みを見せた。
「やった! じゃあ、どこに行く? おっさんの行きたいところでいいよ!」
久美が黄色い声出すと、通りすがりの人の視線が痛い。だが、久美自身はちっとも気にならないらしい。
「あとで連絡する」
そう伝えて久美と別れると、家路に向かった。
久美と出会った頃のことはよく覚えている。彼女に悪気はないのだが、少し人を不快にさせてしまうところがあるから不安だ。
私の名前は小野寺詩織という。学生の頃、久美によって私のあだ名は『おっさん』になった。
当時の私はそのあだ名が嫌だった。女なのに何故『おっさん』なのか。それで久美に理由を問いただすと、彼女はあっけらかんと答えた。
「へ? だって、渡辺さんのこと『わっさん』って呼ぶでしょ。馬場さんは『ばっさん』だし」
まるで当たり前のように言われて、私は何も言えなくなった。久美とはそもそもの考え方、思考回路が違うのだ。まぁ、言ってしまえばそこが久美の面白いところでもあるのだが。
「さてと。明日、どうするかな」
1/6/2024, 4:18:40 PM