『安心と不安』
彼はとても優しい。
私を全部受け止めてくれる。
でも、彼は他の女の子にも優しいから、他の子と親しそうに話してるのを見ると不安になる。他の子に取られちゃうんじゃないかと思って。
そんなことない、彼は浮気なんてしない、と思っても、どうしても嫉妬してしまうし、不安な気持ちになる。
そんなときにふと、『どうしたの?』と声を掛けてくれる時がある。気に掛けてくれてる。嬉しい。
不安な気持ちが爆発して、抱き付いてしまったりする。そして、そんなときはいつも、背中を撫でて優しくしてくれる。
それがすごく、安心するんだ。やっぱりその優しさに絆されてしまう。
彼が私だけに優しい人だったらいいのにな、なんて、甘えたりして。
でもやっぱり、優しい人だから、好きなんだよね。
みんなすごいよね。
前向きにひたむきに働いて、テキパキ動いて仕事を捌いて、笑って談笑して余裕があって。
私はダメだ。
疲れ果ててサクサク動けなくて、ついていけなくて、数も上がらないし、頭も回らないし。
逆流の川を歩いてるよう。
疲れてて効率が悪い。わかってるけど、休めない。いつまで経っても進まない。
向いてない。
真っ暗。
私だけ逆光の中。
ここに未来はあるのかな。
ずっと考えてる。
別の道を。
光を浴びれる場所を。
心から休める場所を。
私に必要なものはもうわかってる。
みつかるといいな、新たな世界。
『逆光』
『こんな夢を見た』
「ねぇねぇ、聞いて!今朝ね、久しぶりに夢見たの。」
二人で昼休憩に外へ出て、注文した青椒肉絲が来る前に、彼女が嬉しそうに話し掛けてくる。
「どんな夢?」
「あのねぇ、好きな俳優さんと街で偶然会ってね、ファンなんです~!とか話してたら、彼の出してるお店に連れてってくれて、Tシャツとかグッズ買っちゃった!」
「グッズ買わされたんだ。」
「いいじゃん!すっごい嬉しかったの~」
いつになく幸せそうに目がとろけている彼女の夢にちょっと嫉妬して、俺は茶々を入れる。
「俺は出てこなかったの?」
「うん。出てこなかった。起きてもすごい幸せ気分だった。」
「ふーん。」
「ねぇ、最近なんか夢とか見た?」
「俺?君の夢なら見たよ。」
「えっ、嘘。どんな?」
「内緒。」
「え~、なんでー。」
「エッチな夢。」
「なにそれ。ただの欲求不満じゃん!」
「そうかも。」
「もー、やらしい~!」
「でも、幸せだったよ。」
「なんか変なことしたんでしょー!」
ふふっと笑ってごまかした頃、青椒肉絲が到着する。彼女はすぐにご飯モードになった。
「いただきます!」
本当は、エッチというより、彼女が可愛くて可愛くて堪らないという幸せな夢だったけど、恥ずかしいので俺の心の中だけに留めておくことにする。
『タイムマシーン』
タイムマシーンに乗れたら、いつに戻りたいだろう?
私は過去に戻っても、結果が同じになりそうだから、戻りたい過去はない。これからを楽しめたらそれでいい。
唯一思うのは、子供の頃の彼に会いたいな。
会って一緒に遊んだり、美味しいお菓子を食べたり、楽しい記憶を残したい。
子供の頃の彼はどんなだったのかなぁ。
仲良く遊んでみたかったな。
もしも幼馴染みだったなら、どんな感じになったかな。恋愛に発展しただろうか。
お互いの成長を見守っていくのも、楽しかったかもしれないなぁ。
なんて夢想しつつ、彼との写真を眺める。
……やっぱり、今だから良かったのかも。
大人になって出会ったから、恋出来たのかもしれない。何もかも新鮮に知り合えたから、ドキドキしたし、わくわくしたし。
こういうドキドキ感は、お互いにお互いのこと知らなかったからこそ味わえたんだよね。
そう思ったら、夢想が止まった。
タイムマシーンなんて無くていい。
これからを楽しくしていきたいな。
『特別な夜』
今日は彼の誕生日。
私の特別な人、特別な夜にお祝いする。
私の予約したお店で、ちょこっとお酒を飲んで、食事して。
とても上品で美味しい料理だった。食事中に写真を撮るのは失礼ぽかったので、SNSに上げられないのは勿体なかったけど。
でも、彼が気に入ってくれたみたいで良かった。『また来ようね。』って言ってくれた。
プレゼントに悩んだけど、彼の好きなワインにしたら、とても喜んでくれた。『帰ったら一緒に飲もう。』って言ってくれた。
キラキラした夜の街を散歩しながら帰った。ショーウィンドウを眺めながら、『お返しのプレゼント悩むなぁ。』なんて言ってくれて、彼の気持ちが嬉しかった。
彼の部屋に着いて、一緒にワインを乾杯する。『美味しい。』って喜んでくれる彼に、私もほろ酔いで嬉しくなる。
『今夜は帰さないよ。』彼の腕に抱きすくめられて、私は幸せな気分になる。
今日はたくさんの嬉しい言葉を返して貰った。こちらこそ、ありがとう。
そんな特別な夜。