ひまわり

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5/12/2024, 12:58:20 PM

俺は常に「理不尽」に取り囲まれていた。






塾用の鞄に、いつもは入れない財布を詰め込む。
スマホを取り出し、家に一番近い児相を探す。

『児童相談所の実態、独房みたい?』

背中と後頭部の痛みが増す。
血は出てないようだけど、とてつもなく痛い。明日は体育の授業があるというのに、






いや、もうないか。
そう、もうなくなるんだ。
なくなってしまう。






震えの止まらない腕、
止まることを知らない涙、
まわり続ける思考回路。

どうして、こんなことに。





始まりは、小さな家族喧嘩。
減ったお菓子の量に疑問が湧いた母は、父と俺を疑った。
父は俺に濡れ衣を着させ、母は俺を叱った。
良くあること。そのまま流しておけば良かったこと。

ただ、今日の俺は、
いつもと違っていた。

「食べてない!なんで信じてくんないんだ!母親なのに!!」
その瞬間、勢いよく視界がブレた。

頬の痛みで、思い出した。
母は昔から、一度頭に血が上ると手を出してしまう人だったと。
最近本人は気をつけているつもりでも、そんなすぐに直せるものでは決してない。


そこで止まってたら、正規ルートを辿れていた。






まるで、自分の身体でないみたいに、コントロールが効かなかったんだ。
きっと、今まで溜めてきた憤慨とか、遺憾とかが一気に、溢れ出たんだろう。

「俺は食べてない!なんで怒られなきゃ、、なんで!こんなの理不尽だ!!」

そこからは、一方的に殴られ、蹴られた。
泣き虫の俺はすぐに泣き出したものの、心の中は意外と冷静だった。



「こんなの、虐待だ」



父の「やめろ」の怒声で終わったこの理不尽な暴力に、俺はようやく名前をつけてしまった。


「まだ言うか!こんなのが虐待っていうんなら、本当の虐待を見せつけるぞ。お母さんに謝りなさい!」

知らねえよ。
もう、遅いんだ。



「塾行ってくる」

二人の引き止めを聞かず、自室に鍵をかけ、今に至る。










ほんと、俺は馬鹿だ。

ほどほどよい家庭に生まれて、ほどほどよい私立に通わせてもらって。
食にも困らないっていうのに、月一の暴力にキレてすべてを壊そうとしている。


これから、どうしよう。
児相に行くべきか、交番に行くべきか。

とりあえず、交番に行こう。
そこで、児相に預けられて。
高校は、大学は、どうなるんだろう。
バイトとかして、なんとかできるかもしれない。いや、
すべて、なんとかしてみせる。



二人が廊下にいないのを見計らって、家を飛び出る。




「それって虐待じゃない?大丈夫w?」
「いやいや違うってw。ちょっと過保護なだけ」
「いやでも、暴力ってアウトじゃね」
「母さんにもきっと事情があるんだ。それに最近は変わろうと頑張ってくれてるし、

 なによりも、二人とも俺のことを愛してくれてる。虐待じゃないよ」



そう、歪んだ愛だ。
耐えられていたら、俺は子供のままでいられたかもしれない。






「聞こえないだろうけど、今までありがとう」
愛も、正解も、子の在り方も、
俺にはわからない。

ただ一つわかることといえば、新たな一歩を踏み出してしまったこと。
それだけだ。





「ごめん」
枯れきった涙の遺言を吐き出し、
今日も俺は、理不尽に取り囲まれる。

5/11/2024, 1:59:17 PM

鏡は真実しか映し出さない。
だから嫌いだ。


昔から読書が好きだった。

いつか、小説家になって、皆んなに大絶賛される物語を書きたい。
自分はきっと短編よりも長編を好む。
だから、若いうちにたくさん経験を積んで、ストーリー構成に活かしたい。

「理系のほうが将来性がある」

先生に、親に、先輩に、友人に。
皆んなに、否定された。



ならば、才能を、結果を。



そこからは、よく思い出せない。
朝から晩まで、調べ物を続け、構成を作り、文章を書いた。

なるべく有名どころの文学部に入るべく、文系科目も必死で勉強した。
暗記は不得意だけど、大丈夫。そう言い聞かせながら、眉間に皺を寄せた。



「僕」の頬をつたうヒビ、
目の下に滲む苦労の跡。

虚栄も張りつづければ、真になる、と。
信じた僕は、「僕」に打ち砕かれた。


気付かされてしまった。
僕ではないんだと。






合格したのは、有名どころの理系学部。
何度も応募した賞には、一度も受からず。







鏡は真実を映し出してくれる。
「本当の自分を見ろ」と、促す。そして、

「愛せ」とも。






いつしか「僕」は、笑みを浮かべていた。
それを見て、僕もため息をつく。






鏡は嫌いだ。
十年もかけて目を背け続けたものを、いとも簡単に押し付けてくる。


ただ、「僕」のことが少しは好きになれそうだと思った。
これが、この有り様が、僕だった。









文系の優等生を偽り続けた、理系の天才。

いいじゃないかと、僕は愛を叫んだ。

5/10/2024, 9:48:12 AM

寂しいからスマホを開いた。
虚しいからスマホを閉じた。

脳裏をよぎるは幼馴染の笑み。
と、そのすぐ横で満面の笑みを浮かべる彼。
「私のほうが」と溢れる遺憾。



私のほうが先に出会ったのに、
私のほうが先に惚れたのに、
私のほうが先に追いついたのに、

あんなのを選ぶだなんて。


私のほうがずっと優秀だし、
私のほうがずっと落ち着きがあるし、
私のほうがずっと寄り添ってあげられるし、

幸せにしてやれる。





なのに、なんで。








『初デート!おそろいカチューシャでピース』
忘れられない、あなた方のメモリアル。




それと、


(初デートに遊園地?
 決めたのはあいつね。
 彼は本来インドアだし本好きだから、
 静かなカフェとかお洒落な本屋のほうが
 いいのに。
 付き合うぐらいには仲良かったのに
 そんなことも分かんないの?)







忘れられない、あなたへの未練。