鏡は真実しか映し出さない。
だから嫌いだ。
昔から読書が好きだった。
いつか、小説家になって、皆んなに大絶賛される物語を書きたい。
自分はきっと短編よりも長編を好む。
だから、若いうちにたくさん経験を積んで、ストーリー構成に活かしたい。
「理系のほうが将来性がある」
先生に、親に、先輩に、友人に。
皆んなに、否定された。
ならば、才能を、結果を。
そこからは、よく思い出せない。
朝から晩まで、調べ物を続け、構成を作り、文章を書いた。
なるべく有名どころの文学部に入るべく、文系科目も必死で勉強した。
暗記は不得意だけど、大丈夫。そう言い聞かせながら、眉間に皺を寄せた。
「僕」の頬をつたうヒビ、
目の下に滲む苦労の跡。
虚栄も張りつづければ、真になる、と。
信じた僕は、「僕」に打ち砕かれた。
気付かされてしまった。
僕ではないんだと。
合格したのは、有名どころの理系学部。
何度も応募した賞には、一度も受からず。
鏡は真実を映し出してくれる。
「本当の自分を見ろ」と、促す。そして、
「愛せ」とも。
いつしか「僕」は、笑みを浮かべていた。
それを見て、僕もため息をつく。
鏡は嫌いだ。
十年もかけて目を背け続けたものを、いとも簡単に押し付けてくる。
ただ、「僕」のことが少しは好きになれそうだと思った。
これが、この有り様が、僕だった。
文系の優等生を偽り続けた、理系の天才。
いいじゃないかと、僕は愛を叫んだ。
5/11/2024, 1:59:17 PM