衣替えをすると、思いもかけない服が出てきて驚くことがある。それは確かに自分が買ったものの筈なのに、しまい込んでいるうちに忘れてしまったものだ。
少し可哀想だな、と思う。服だって自分に着られるのを楽しみにしていただろうに、と。
だからこの服は自分の元にいるべきではないのだと思う。
「査定の結果額についてですが……」
自分ではない誰かに大切にして貰えるといい。少ししか値のつかなかったレシートを見ながら、自分勝手にもそんなことを思った。
物事の始まりは、いつも思いがけないところからやってくる。
例えば気紛れに選んだ部活で親友と出会ったとか。人生どう転ぶか、わからない。
将来はケーキ屋さんになりたいと思ってたのに、何故か証券会社で働いている。ケーキはそのまま趣味だけど。
いつも始まりは思いがけないところから。昨日すれ違った人と、思いがけないところで巡り会ったりするかもしれない。
例えば、すぐそこですれ違った誰かが、小学校の頃の同級生だったとして、「クラスが一緒だった〇〇くん!」と気づけるものだろうか。
歩きながら、自分と同じく道行く人達を観察してみる。この人達に一人ずつ人生があって、どこかで出会ったことがあるのかも知れない。
自分と同じ道を行く彼らは、数秒だけ同じ時間を共にしている、と考えると、ちょっと運命的なような気がした。
秋の抜けるように澄んだ空に、乾いた風が吹き抜ける。湿気た様子は消え失せて、町の彩りは変わっている。宣伝広告は気が早く冬支度をしていて、服屋や雑貨屋も右に倣え。
冷え込んだ朝の中、自転車の上、冷たくなる手に、冬が近いことを思った。
ピアノが流れている。友人に散々語られたせいでミミタコだ。ラプソディー・イン・ブルー。
部屋に入る光が、カーテンに沿って、まるでさざ波のように揺らいでいた。それは部屋に流れるラプソディー・イン・ブルーのリズムに合わせて波打っているかのようだった。