ハシビロコウのスクリーンセーバーがこちらを見ている。鋭い眼差し。「ハイ軍曹!」と背伸びをしたくなる鋭い視線をしているが、ハシビロコウという生き物は動かないのである。その不動、剥製の如く。
以前実際に動物園に見に行ったけれど、まあ動かなかった。ただ動物園だと狩りをしないから、野生のハシビロコウとはまた違うかも知れない。
テレビでしか知らないが、野生のハシビロコウは本当に動かない。動かない狩りって燃費悪くなかろうかと思う。
しかし、それにしても、とスクリーンセーバーを見る。──なんならデスクトップ背景もハシビロコウである──眼差しが鋭い。無駄に動かないのも相まって、謎の威圧感がある。
悪路を踏みしめ、ひたむきに歩く。
山道のハイキングとは、極論すればそんなようなものだと思う。
山登りと一口に言っても、ハイキング、トレッキング、クライミングまで難易度も手段も様々だ。共通して言えることは、「過信は禁物」と「ごみは持ち帰りましょう」ということ。
自分の場合は運動の延長でやっているけど、いつかは高い山にも登ってみたいなと思う。それこそ富士山とか。
どうして人は高い山を目指すのか。それはこの一言に要約されるんじゃないかと思っている。
──そこに山があるから。
帰りがけ、訳もなく走った。むしゃくしゃしていた。理由はそれだけだ。アンガーマネジメントだとか、よく分からないカタカナが頭の中を回るけど知ったことか!
自分の感情を抑えて自分を殺すことが大人なら、私は子どものままでいいよ!
「わー!」
走りながら叫んだ。
暫く走って落ち着いて、我が身を振り返る。めっちゃ変な人じゃん……。
「おやすみ」
狭いアパートの中、カーテンを引く。カーテンが引かれるだけで、同居人と自分との間に空間が出来たような気持ちになるのだから、布一枚でも仕切りは大事だ。
とはいえ、布一枚なのは確かだから、相手の歯ぎしりの音やら寝言やらが聞こえてくる。時に寝返りで領地侵略されることもある。
「ギャラが上がった!」
「おしゃー!」
さえない芸人をやってるコンビだけど、どうにかこうにか名前が売れて、手取りが上がって、二部屋あるアパートに引っ越そうと言うことになった。
取り外された仕切りのカーテンを見る。カーテンとは名ばかりのただの布だ。汚れていて、所々ほつれている。
いつかはラジオなんかで、「ギャラも低くってね、家賃節約で相方と一部屋のアパートに住んでたんですよ」なんて言える日が来るんだろうか。
君が泣いていた。理由を教えてと言っても、泣きじゃくるばかりで教えてはくれなかった。
自分が不甲斐ないとか、頼りないとか思わないで、泣いている君も綺麗だなと思う自分は多分ずるい性格をしている。
だって分かりようがないじゃないか、お互い違う人間なんだから。
……って考え方も、大分ずるいかな。