【泣かないよ】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
3/16 PM 5:45
「もー、真夜(よる)くん、
いつの話をしてるの~。
確かにお化け屋敷もホラーも
今でも苦手だけど、さすがに
子供の頃みたいには泣かないよ?」
「……本当に?」
「……う。そう念押しするように
聞かれちゃうと……宵ちゃーん」
「泣かないわよ。真夜は心配しすぎなの」
怖がりだという古結(こゆい)と宵が、
泣かないと言い張っている。
恐怖心は、年齢を重ねると薄れるもの
なんだろうか。
子供でも大人でも、怖いものは
怖いような気がする。
「2人がホラー系がダメなのは
把握したけど、真夜は大丈夫なのか?」
「オレ? ……オレは、人の手で
作られたことが明らかなものが
怖いっていう感覚が分からない」
「なるほど」
「天明(てんめい)は?」
「好き好んで、って感じではないな。
でも、お化け屋敷やホラー映画なんかも
誘われて断るほどじゃない」
「あ。それは誘われたことがあるって
言い方だね、天明くん」
「ああ、サッカー部の仲いいメンツに、
ホラー好きが1人いるんだ」
夏休みに、サッカー部員で行った
お化け屋敷を思い出す。
「……もしかしたら、ミステリーが
好きな真夜(よる)は、あのお化け屋敷、
楽しめるかもしれない」
「うぅん、どんなお化け屋敷なのか
聞きたいような聞きたくないような。
……でも気になるから、教えて、
天明くん」
「本物の古民家使ってるお化け屋敷
なんだけどな。その家に殺人鬼が潜んでて」
「え」
「そいつに見つからないように
隠れたりしながら、家の中を調べて
ヒントやアイテムを探して脱出するのを
目指すっていう……」
「襲われる恐怖がある中で、探索や推理も
するってことか。確かに、お化け屋敷と
しては珍しいし、楽しいかもしれない。
……行ってみる?」
「そんなリアルにクトゥルフTRPGを
体験させられそうなおうちは
遠慮したいかな!」
泣かないと言っていたのに、
完全に涙目になっている古結が
宵に抱きつきながら言う。
古結を抱き締め返している宵も、
平静を装っているようだが
顔は真っ青だ。
「……2人のSAN値が限界を下回りそう
だから、やめておく」
「SAN値がなんなのかは分からないけど、
無理なのは見て分かるよ」
2人には悪いと思いながらも、
笑ってしまう。
真夜が過保護になってしまうのは、
こういうところをずっと側で
見てきているからなんだろう。
【怖がり】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
3/16 PM 5:35
「なぁ、真夜(よる)。
宵と古結(こゆい)は、趣味嗜好が
だいぶ違う感じがするけど、
共通点ってあるのか?」
コンビニで買い物をしている2人を
外で待ちながら、天明(てんめい)が
聞いてくる。
「……あるよ。2人とも、お化け屋敷とか
ホラー系、全くダメ」
「――ふはっ……。……そうか、2人とも
怖がりなのか。それは可愛いな」
幼い頃、お化け屋敷の中で
オレにしがみついて大泣きしていた
宵と暁を思い出す。
思えばあれも、オレが2人を守らないと、
と、強く思った要因のひとつだった。
【星が溢れる】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
3/14 PM 6:45
「うわぁあ~! 真夜(よる)くん、
これ何? すっっっごくキレイ!」
暁が真夜から受け取った
ホワイトデーの贈り物を見て
興奮気味に問いかけている。
「《クリスタルハーバリウム》って
いうものだよ」
「なんだか名前もオシャレだね!
お花がいっぱい詰まって
キラキラしてる……ほんとにキレイ。
ね、宵ちゃん! これ、スゴいね!」
「そうね、確かに……綺麗だわ」
「ありがとう~、真夜くん!
お部屋に大切に飾らせてもらうね」
「気に入ったなら、良かった」
「気に入らない訳がないよー!」
「……ああ、ちなみに。部屋を暗くして
ライトで照らしてみると、また違った
感じになるみたいだよ」
「えっ、試してみたい!」
暁に言われるがまま、真夜が部屋の
電気を一度消す。
「……わ、暗闇の中でライト当てると、
中のお花のキラキラが
更に強まる感じがするね~!
ロマンチック!」
スマホのライトをかざしながら、
暁が更にハーバリウムに見入っている。
暁のハーバリウムは、
柔らかなオレンジ色のバラを
メインに、白いブバルディアや
ライスフラワー等で構成されていて。
アタシのハーバリウムは
濃い色のブルーローズをメインに
ブルースターやかすみ草等で
構成されている。
闇の中、たくさんの花々が
光っている様子は、
まるで星が溢れているようだった。
【安らかな瞳】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
3/12 PM 2:50
「――あ、インターホン鳴ってる」
暁が音に反応して、ゲーム画面から
視線を外してオレの方を見る。
「お荷物でも届いたの?」
「いや、天明(てんめい)が
来たんじゃないかな」
「……は?」
玄関へ向かおうとしたのか、
ソファから腰を上げた宵が
そのまま固まった。
「宵と暁に用があるって言うから、
なら、うちに来れば? って
LINEで住所送っておいたんだよ」
「……やるねぇ、真夜(よる)くん」
ニコニコ笑っている暁とは対照的に、
宵は呆然と立ちつくしたままだったので、
オレが玄関へ向かうことにした。
「いらっしゃい、天明。
迷わず来られた?」
「ああ、学校から近くて
分かりやすかったよ。
――お邪魔します」
リビングへ戻ると、暁がひらひらと
手を振って天明を迎える。
「いらっしゃーい、天明くん。
わたしたちに用事って聞いたよ~」
「悪いな、急に」
「全然悪くないよ。どうしたの?」
「あー……。フライングになるけど、
バレンタインのお返し渡しに来たんだ」
「そうなんだぁ。
……けど、どうしてフライング?」
「それは……。俺、バレンタインの時、
気持ちに応えられないから、
受け取れないし、お返し出来ないって、
基本的に断るスタンスだったんだよ」
「でも、押し付けられまくってたね」
「まぁ、そうだったんだけどな。
一応全員にお返し出来ないって言った
手前、学校で古結(こゆい)たちに
お返しを渡すのは控えた方がいい気が
したんだ」
「……ん? あれ? ……それって、
わたしたちだけに、お返ししようと
思ってくれたの?」
「……そうだな。古結たちには、逆に
しないって選択肢が俺の中になかったな」
「わ~。天明くんて義理堅いっていうか、
友情に篤いっていうか……。
ふふ、ありがとう、とっても嬉しい。
ね、宵ちゃん」
「え、あ……そう、ね? ……ありがとう」
じゃあこれ、と、天明が2人に
お返しを差し出す。
暁にはホワイトショコラの中に
苺ガナッシュが詰まったトリュフ。
宵には猫の肉球の形をしたクッキーと
フィナンシェの詰め合わせ。
しっかり好みが把握出来ているな、と
思う。
「美味しそう!」と喜ぶ暁と、
「可愛い」と思わず呟く宵を見て、
天明はほっとしたような、
安らかな瞳で2人を見つめている。
どうやら天明にとっても、
2人はもう、特別な存在に
なっているのかもしれない。
【ずっと隣で】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
3/11 PM 3:05
「宵ちゃん、真夜(よる)くん、
紅茶淹れたよー。
2人がコーヒー党なのは
重々承知してるけど、このお店の
マドレーヌにはセイロンティーが
イチオシだから!」
「「暁」」
「うん?」
「アンタはアタシたちの側にいなさい」
「ずっと隣で、笑ってて」
「ええー!? 2人とも急に
どうしたの!? 嬉しいけど!」
「……ここのマドレーヌ、美味しいわよね」
「紅茶も美味しいよ、暁」
「う、うん。……え、わたし、
幻聴でも聞いたかな……?」