紗夢(シャム)

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【安らかな瞳】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

3/12 PM 2:50

「――あ、インターホン鳴ってる」

 暁が音に反応して、ゲーム画面から
 視線を外してオレの方を見る。

「お荷物でも届いたの?」
「いや、天明(てんめい)が
 来たんじゃないかな」
「……は?」

 玄関へ向かおうとしたのか、
 ソファから腰を上げた宵が
 そのまま固まった。

「宵と暁に用があるって言うから、
 なら、うちに来れば? って
 LINEで住所送っておいたんだよ」
「……やるねぇ、真夜(よる)くん」

 ニコニコ笑っている暁とは対照的に、
 宵は呆然と立ちつくしたままだったので、
 オレが玄関へ向かうことにした。

「いらっしゃい、天明。
 迷わず来られた?」
「ああ、学校から近くて
 分かりやすかったよ。
 ――お邪魔します」

 リビングへ戻ると、暁がひらひらと
 手を振って天明を迎える。

「いらっしゃーい、天明くん。
 わたしたちに用事って聞いたよ~」
「悪いな、急に」
「全然悪くないよ。どうしたの?」
「あー……。フライングになるけど、
 バレンタインのお返し渡しに来たんだ」
「そうなんだぁ。
 ……けど、どうしてフライング?」
「それは……。俺、バレンタインの時、
 気持ちに応えられないから、
 受け取れないし、お返し出来ないって、
 基本的に断るスタンスだったんだよ」
「でも、押し付けられまくってたね」
「まぁ、そうだったんだけどな。
 一応全員にお返し出来ないって言った
 手前、学校で古結(こゆい)たちに
 お返しを渡すのは控えた方がいい気が
 したんだ」
「……ん? あれ? ……それって、
 わたしたちだけに、お返ししようと
 思ってくれたの?」
「……そうだな。古結たちには、逆に
 しないって選択肢が俺の中になかったな」
「わ~。天明くんて義理堅いっていうか、
 友情に篤いっていうか……。
 ふふ、ありがとう、とっても嬉しい。
 ね、宵ちゃん」
「え、あ……そう、ね? ……ありがとう」

 じゃあこれ、と、天明が2人に
 お返しを差し出す。
 暁にはホワイトショコラの中に
 苺ガナッシュが詰まったトリュフ。
 宵には猫の肉球の形をしたクッキーと
 フィナンシェの詰め合わせ。
 しっかり好みが把握出来ているな、と
 思う。

「美味しそう!」と喜ぶ暁と、
「可愛い」と思わず呟く宵を見て、
 天明はほっとしたような、
 安らかな瞳で2人を見つめている。
 どうやら天明にとっても、
 2人はもう、特別な存在に
 なっているのかもしれない。

3/14/2023, 4:22:15 PM