【Love you】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
2/24 PM 4:20
部活の休憩時間。
暁の誕生日が近いことが話題になった。
「3月1日だったわよね」
「うん、そうだよ~。
しぃちゃん、覚えててくれたんだ」
「……なんか、欲しいもんあるのか?」
「え、なになにとっしー。
もしかしてサプライズ誕プレとか
してくれるの?」
「言ったらサプライズにならねーよ」
「それもそっか~」
あはは、と無邪気に笑う暁は、
相変わらず可愛くて。
今日も十詩希(としき)は
心を奪われっぱなしのようだった。
「ちなみに、これはサプライズだった、
って思うプレゼントってあったのか?」
「んーとね……。――あ、婚姻届!」
「――は!?」
十詩希が驚くのも無理はない。
あたしだって驚いたし、聞きつけて
しまった他の合唱部員も唖然としている。
「知ってる? 婚姻届って、
役所で貰える基本的なもの以外に、
キャラクターものとか、オリジナル
デザインなものとかあるんだよ!」
「初耳だわ」
十詩希が絶句してしまっているので、
仕方なくあたしが会話を繋ぐ。
「わたしも偶然テレビでそういうのが
あるよって特集してたを見たの。
でね、その時見た、美女と野獣を
イメージした婚姻届がすごく素敵で。
シルエットで描かれたイラストも、
Love you foreverのフォントも綺麗で、
将来こんな婚姻届を出せたら
いいなぁって思ったんだけど、
わたしが結婚する頃にもこのデザインの
婚姻届、販売されてるかな~って
心配だったんだよね」
ああ……この先はなんとなく
予想出来てしまう。
「そうしたら、真夜(よる)くんが
プレゼントしてくれたの。
結婚する頃まで待たなくても、
今買って、必要になる時まで
保管しておけばいいだけだよって。
とっても嬉しかったけど、いきなり
婚姻届渡された時はびっくりしたし、
ちょっとドキドキしちゃったよー」
そんなものを躊躇いなく
プレゼントしてしまう
星河(ほしかわ)くんが、
心底恐ろしい。
そして、こんな人が恋の障害な
十詩希が、心底不憫だと思った。
【太陽のような】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
2/23 PM 2:10
(わ~、ぽかぽかだ~)
干していた洗濯物や掛け布団が
あったかくて気持ちいい。
それを部屋の中に取り込みながら、
やっぱりお日様の力ってすごいと
再認識する。
現実の世界でも、虚構の世界でも、
太陽に喩えられる人の存在は大きい。
その明るさで、誰かを元気にしたり、
笑顔にしたり。
日だまりのような優しさで包み込んで、
安心感を与えてくれたり。
絶対的な強さと影響力を発揮して、
仲間たちを導いてくれたり。
太陽のような人には、実は様々なタイプが
あるけれど、共通するのは、
《なくてはならない存在》ということ
だと思う。だとしたら。
(わたしにとっては、 太陽=宵ちゃんと
真夜(よる)くんってことになるよねぇ)
2人のことを思い浮かべるだけで、
心が暖かくなって、笑顔になれる。
こんなにもたやすく満たされた
気持ちになれるなんて、本当にすごい。
――そんな風に浸っていたら、
不意にLINE通話の音が鳴った。
「もしもし~。宵ちゃん、どうしたの?」
「暁、今、家にいる?」
「いるよー。洗濯物取り込んでたの。
あと、宵ちゃんたちのこと考えて
ニマニマしてた」
「何それ……」
「宵ちゃんたちは、いつだってわたしを
幸せにしてくれる存在ってこと」
「はいはい。じゃあもっと幸せになれるかも
しれないから、暇ならうちに来なさい。
これから真夜がスコーン作るって
言ってるわよ」
「わぉ。それはすぐ行くね!」
「作って焼けるまで、ある程度時間が
かかるんだから、洗濯物畳んでから
来なさいよ」
「分かった~」
洗濯物を片付けて、スコーンに合う
紅茶の缶を鞄に入れて。
わたしにとって、太陽のような2人に
会いに行く。
今日も素敵な休日になる気がした。
【0からの】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
2/21 PM 8:00
「そういえば、お母さん。
こないだ宵ちゃんたちの家に
お泊まりに行った時、
夕月(ゆづき)さんが、昔、お母さんに
『ちゃんと守護聖様を攻略して』って
怒られたって言ってたよ~」
「……そんなこともあったわね。
好感度が上がると、執務室に会いに
行った時の台詞が変わっていくし、
デートにも誘われまくるはずなのに、
なんでそういうとこ気にせずスルー
なのよって、当時は頭抱えたわ」
「宵ちゃんも乙女ゲーを乙女ゲーとして
プレイしてくれなかったりするんだよね。
真夜(よる)くんもギャルゲー対応力無いし」
「親子揃って、面倒見いいくせに
恋愛系ゲームが下手ってどういうこと……」
「ところで、お母さん」
「今度は何?」
「毎回レベル1からのリスタート、
くじけそうです」
「毎回レベル1から、マップやダンジョンも
毎回違う、それがローグライクゲームの
醍醐味ってものでしょうが」
「ちょっとまだ醍醐味より辛さが勝ってる」
「ローグライクゲームは前回の失敗が
必ず次回以降に活かせるじゃない。
敵の行動パターンを覚えて、どう動いて
どう攻撃する、または回避すればいいか、
どのアイテムをどのタイミングで使うか。
キャラがレベル1に戻っても、プレイヤー
自身の経験値はずっと貯まっていくの。
ターン制なところも、アクションや
格ゲーよりは、暁に合ってると思うけど」
「でもー、強くなった武器とかが
無くなっちゃうの、結構絶望するよ?」
「……冒険の書が消えて、何十時間分の旅が
0からのやり直しになる絶望を知らない
小娘が何か言ったみたいね?」
「声も笑顔も怖いですごめんなさい!」
「いいのよ、別に。
私にとって冒険の書で絶望したことも
今となってはいい思い出なんだから」
「(言い聞かせてる感……!
むしろお母さんのトラウマなんじゃ……)」
【同情】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
2/21 PM 0:40
(……負のオーラ凄いわね)
昼休み。
十詩希(としき)がまたあからさまに
凹んでいる姿を目撃した。
どうせいつもの如く、
暁と星河(ほしかわ)くんの
天然ラブラブっぷりでも
見かけたんだろうと思ったら、
どうにも少し様子が違うようで。
十詩希の視線の先には、
暁と、星河兄妹と――やたらイケメンな
男子生徒がいた。
……あれは確か……。
「あれって学校で1、2位を争うぐらい
バレンタインチョコ貰ってたって噂の
サッカー部の男子じゃない」
「やっぱりそうだよな……」
「驚いた。3人で全てが完結してるような
暁たちの世界の中に、あんなに自然に
入れる人間もいるのね」
「それなんだよなぁ……。あいつらの間に
入り込める余地があるなんて、こっちは
微塵も思ってねーってのに……!」
「ああやってあっさり馴染めるのは、
イケメンだけの特殊スキルかなにか
なんじゃないの?
……何にせよ、同情するわ、十詩希」
「はっきり同情って言うなよ、寳(たから)。
余計に落ち込むじゃねーか……」
「いっそ落ちるだけ落ちて吹っ切ったら?
あのイケメン君と同じアプローチは
あんたには無理なんだから。
結局、今持っている手札で
勝負するしかないって開き直りも
大事だと思うわよ」
まぁ、暁の心に刺さるカードが何なのかは、
あたしにも分からないけど。
【枯葉】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
2/20 PM 6:00
「まだまだ寒いけど、先月に比べたら
日が延びてきてる気がするねー」
確かに、先月までならこの時間に
もうすっかり空が濃い藍色に
染まっていた気がする。
けれど今は、西側の空にはまだ
夕焼けの赤色が幽かに見えていた。
「油断してるとすぐ春が来そう」
「暁は寒がりなんだから、春が来た方が
嬉しいんじゃないの?」
「そうなんだけどね。でも、寒い季節の
枯葉を踏んだ時に鳴る、カサカサって
ちょっと耳がくすぐったいような音は
好きだから、名残惜しくなるっていうか」
「ああ……その感覚はなんとなく分かる」
「あ、分かってくれる?
ありがとー、真夜(よる)くん。
宵ちゃんはあんまり好きな音じゃない?」
カサカサ鳴る枯葉の乾いた音。
暁はくすぐったいと言ったけれど、
アタシは――……
「寂寞感を抱く音だと思うわ」
「せきばくかん?」
「単純に言えば、もの寂しさを感じる音
ってことだよ」
「あー、うんうん。わたしはなんだか
楽しくなっちゃうけど、宵ちゃんは逆に
寂しくなっちゃうんだ。
でも、そのセンチメンタルな感じも
あるある! って思う」
あるある、と言いながら、
暁が急に抱きついてくる。
「ちょっ……何なの、いきなり」
「寂しい時はくっつくと安心するかなって。
ねー? 真夜くん」
「……そうだな」
暁に促されたせいで、
真夜まで後ろから
アタシを抱きしめてきた。
「あのねぇ……道端で人のこと
サンドするのはやめなさいよ……」