【三日月】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
1/1 PM 5:30
「わ~、寒いね~」
踊るような足取りで先頭を歩きながら
古結(こゆい)が呟いた。
日射しが暖かかった昼間と違って、
辺りはすっかり暗くなって冷たい風が
吹いている。
「晩ごはんの時間にはまだ早いけど、
ちょっとお腹すいちゃった」
「……ラーメンでも食べて帰る?」
「真夜(よる)くん、ナイスアイディア!
宵ちゃんと天明(てんめい)くんも
それでいい?」
「……いいけど」
「異議なし」
「ちなみにわたしは醤油派で~、
宵ちゃんと真夜くんは塩派なんだけど、
天明くんは?」
「あー、俺は味噌だなぁ」
「バラバラだねぇ。――あっ、じゃあじゃあ、
カップヌードルだったら好きな味は?
せーの!」
「「「「カレー」」」」
まさかの満場一致!! と言いながら
爆笑している古結と、
その姿を見て柔らかに微笑んでいる真夜と、
笑いをこらえようとしているのか口許を
手で押さえて小さく震えている宵。
俺も思わず笑ってしまった。
古結 暁、星河(ほしかわ) 真夜、星河 宵。
幼なじみだという3人と、俺は知り合って
日が浅い。
ただ、一緒にいて、不思議な居心地の良さを
感じている。
「……暁、笑ってばかりいないで、
ちゃんと前見て歩きなさい。
人にぶつかるわよ」
「はーい」
古結に注意する宵の耳元で揺れる、
三日月に猫が座っているデザインの
イヤリングが、街路灯の光を受けて
キラリと輝いた。
【色とりどり】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
1/1 PM 2:32
「ドリンクバーも、こう見ると
バリエーションが豊富だよな。
コーヒーと紅茶だけで何種類あるんだ?
ひとまず、古結(こゆい)がアップルティーで…」
「宵はカフェオレ」
「カフェオレ…カフェオレ…。
――カフェラテとカプチーノとカフェモカは
あるのにカフェオレがないな」
「ああ、その中ならカフェラテ」
「俺には違いがさっぱりわかんねーわ……」
「天明(てんめい)はホット? アイス?」
「俺はアイスウーロンにしとく。
真夜(よる)は?」
「水」
「こんだけ色とりどりあるのに水か……」
【雪】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
1/1 PM 2:30
「飲み物尽きそうだな。ドリンクバー行ってくる」
「……天明(てんめい)、オレも行く。
暁、何がいい?」
「アップルティーでお願いします!」
「了解」
「……? 宵のは聞かなくていいのか?」
「聞かなくても分かるから」
「おー、さすが双子」
「じゃあ、真夜(よる)くんと天明くんが
戻ってくるまでちょっと休憩~。
楽しいねぇ、冬ソング縛り」
「まだ続ける気?」
「だって名曲揃いで歌うのも聞くのも
テンション上がるんだもん。
やっぱり冬って寒いから、温もりを求めて
素敵な恋の歌が出来やすかったりするのかな」
「どうかしらね」
「それにしても!
天明くん、歌うま過ぎない?
『粉雪』も『Lovers Again』も原キーで
余裕で歌いこなしてたよ!
音域どうなってるの!」
「……なんで怒ってるのよ」
「だってイケメンで背が高くて運動神経良くて
性格良くて歌までうまいなんて……正直、
とんでもない欠点のひとつやふたつあって
欲しくなっちゃう」
「理不尽な……」
「大変……宵ちゃんがもうメロメロに骨抜きに
されて天明くんの味方しかしてくれない……」
「…っ、メロメロにも、骨抜きにもされて
ないし、味方をしたつもりもないわ」
「冗談だよ~。天明くんの歌には感動したけど、
わたしにとっての最高得点は宵ちゃんの
『雪の華』と真夜くんの『ヒロイン』だしね」
「……暁の『White Love』も良かったわよ」
「やったぁ。……でも確かにそろそろ冬ソング
ストックが切れそうかも。
もうボカロを入れるしか……」
「アタシと真夜はアンタに聞かされてきたから
ある程度わかるけど、槇(まき)くんは
全然知らないかもしれないわね」
「いっそ天明くんをボカロ沼にはめたいんだよ。
歌って欲しい曲が多過ぎて」
「……メロメロなの、暁の方じゃない……」
【君と一緒に】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
1/1 PM 1:00
(……何なの)
いつの間にか真夜(よる)と暁は
少し前方を歩いていて。
今、アタシの隣には槇(まき)くんがいる。
「あー…マジで旨かった。
あんだけ旨いと、他のも食ってみたくなるな」
全メニュー制覇はキツそうだけどな、と
明るく笑いながら言う。
「初詣の後は必ず行くんだろ。
それ以外で行くことってあるのか?」
「……気が向けば」
「じゃあ行く時はまた誘ってくれ。
さすがにひとりスイーツは勇気がいるし」
「え?」
「ん?」
「……槇くんは……、その、アタシたちに
付き合わされるの……迷惑じゃないの?」
「ははっ、何だそれ。宵たちと一緒にいるの、
俺は楽しいだけだよ」
「……そう」
アタシは……キミと一緒にいるのが苦手。
身体が緊張して変に力が入ってしまう。
呼吸がおかしくなってクラクラする。
鼓動がどんどん早くなる。
――いつもの自分でいられなくなる感覚。
それがとても苦手、なのに。
甘いものが嫌いじゃないということを
新たに知ってしまった。
アタシたちといる時間が嫌ではないことも。
【冬晴れ】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】
1/1 PM 1:00
(……いい天気だ)
冬の晴れた空は嫌いじゃない。
冷えた空気。
澄んだ青。
「キレイだね~」
いつの間にか隣に並んで、
空を見上げながら暁が言う。
「なんでかな、夏より冬の方が絶対
空の色キレイだよね、真夜(よる)くん」
冬の空の方が綺麗に見える理由。
説明出来ない訳ではなかったけれど、
本気で知りたいと思ってないだろうから、
「そうだな」と同意だけしておいた。
少し後方には、天明(てんめい)と二人きりに
されて、うろたえている宵がいる。