「moonlight」
月の光は好きだ。静かで、きれいで、嬉しい夜も落ち込んだ夜も全ての夜に優しく寄り添ってくれる。
でも、今日は違った。
「ごめん、俺たち別れよう」
月明かりの下、彼は私に終わりを告げた。あまりの衝撃に、どう返したのかは記憶になく、遠くなる彼の背中だけが鮮明に脳裏に焼き付いていた。
一人茫然と立ち尽くす夜の路地裏。ふと空を見上げると月だけがポツンと浮かび、星たちは姿を隠している。
まるでスポットライトのように私だけを照らす月の光は、ただただ無機質で優しさを感じることはできなかった。
「今日だけ許して」
「今日だけは許されるよね」
真っ暗なオフィスの中で一人、デスクに向かいながら呟く。パソコンの前にはコンビニで買ったスイーツが一列に並んでいる。どれから食べようか悩んでいると、ふと疑問が浮かんできた。
「そういえば、『許して』って誰に言ってるんだろ」
人はよく『許して』とか『いいよね』と言うが、一体誰に許してもらおうとしているのだろうか。自分か、はたまた神様か。
「んー、おいしー!」
そんな疑問も、一口スイーツを頬張れば、その甘さにかき消されていく。
きっと誰でもいいのだろう。自分のちょっとした欲望を、なんとなく誰かに許してほしいだけなのだろう。多分、自分はそうだ。
「まぁ、その誰かが許してくれなくても、私のことだからきっとこっそり食べちゃうとは思うけど」
最後の一口を飲み込むと、またパソコンに向かい直す。
あともう一踏ん張りだ。
目が覚めると、そこは真っ暗な世界だった。一歩先すら見えず、歩き出せば奈落に落ちていきそうだ。
ふと誰かに呼ばれた気がして顔を上げると遠くに微かな光が見えた。今にも消えてしまいそうなほど小さな光だ。
ーーーーーーーーー呼ばれている。早く行かなくては。
気がつけば、一歩また一歩と光の方向に向かって歩き出している。さきほどまでの落ちていきそうな感覚は不思議と消えていた。