『そっと伝えたい』
カップルで賑わう小さなカフェ。
時期的に色めいた雰囲気の店内は仲の良さそうな恋人達でガヤガヤとしている。
不思議そうにキョロキョロと店内を見回すあなたは今、バレンタインの今日何故僕がこんなお店に自分を連れてきたのかって考えいるのかもね。
あなたは気づいてないかもしれないけど僕はずっとあなたの事が好きなんだよ。
いつもいつも友達枠で納められてしまうから今日こそは君に伝えたい。
運ばれて来たハートの可愛いケーキを渡すふりをして君の耳元で囁く
『ずっとあなたが好きでした』
と。
『未来の記憶』
私には見たい時に見たいものを見れないし、自分や自分と血が繋がる人となると曖昧にノイズが入ったようになるが未来が見えるという能力がある。
23年間この能力に悩まされて最近やっと分かってきたのは、人は朝玄関で右足から外に出たか左足で外に出たかの些細な違いくらいで大きく未来が変わる生き物らしく、鮮明に見えていてもその未来にならないなんて事もよくある。
私の能力は鮮明に見える未来よりもどんなにかすれてても歪んでても何回も見えてしまう未来の方が現実になりやすいらしい。
最近私には3つ年下ハンドメイド作家の彼氏が出来た。
彼とは身長もあまり変わらない女らしくない私を、可愛いなんて言う可愛いとかっこいいを合わせ持った凄く大切な人。
でも、この能力はその大切な人の未来も容赦なく見せつけて来る。
1つ目
彼の作品が有名になり、彼は有名なデザイナーとして世間に知れ渡って私には到底手が届かなくなっている姿。
見てもらいたいって言っている作品も皆に取って貰え、服装も生活水準も今よりはるかに上がっているのに、彼の周りには誰一人仲の良い人が居ない。
代わりに居るのは上辺だけで甘い蜜を吸おうと薄っぺらい言葉を述べる人だけ。
だからか、彼の笑顔は今と違って大分歪んで見えた。
2つ目
彼はハンドメイド作家を諦めて、私でもない別の人と結婚し定食屋を開いている姿。
物を作ること自体は完全に諦めてしまったが、夫婦仲は良いらしく小さな子供も見え、混み合うという程ではないが常連客もいて慎ましくも幸せそうに毎日を過ごしている。
けれど、以前作っていた物に似た作品を見ると時折寂しそうな笑みを浮かべていた。
3つ目
ハンドメイドをほそぼそと続けながら仲間の手伝いの延長で何らかの舞台に立っている姿。
家に帰れば結婚している相手と子供らしき姿も見えるが、映像が曖昧でノイズだらけの歪んだ様にしか見えないので詳しくわからない。
でも、他2つより見る回数が多いのはこれで、私の理想が入っているのもあるかもしれないけどこれが一番幸せそうに笑っているような気がした。
彼の未来が見えるからってこうなって欲しいとかを勝手に私が決めるわけにはいかない。
彼が選んだ道を歩んでほしいと思っている。
でも…。
彼の未来殆どに私はいないのが淋しい。
ほら彼の未来だ。とまた告げてくるはっきりとした映像に顔をしかめながら、台所でお茶を淹れてる彼の服の裾を私は小さく掴んだ。
『君の背中』
いつも僕の前に立って僕を守ってくれる華奢で小さな背中。
いつも僕は君の背中しか見られない。
だから、いつか僕が君に背中を見せるように立ちたいのに、大人になっても情けない僕はとても頼りなくて、相変わらず君の背中ばかり見てる…。
なのに君は僕の顔を見て笑うんだ。
「私は背中を見るよりも貴方の顔を見て一緒に進みたいの」
って。
僕は一生君に背中を見せる事はできないかもしれない
でも…
君の背中を支えるように歩いていきたい
『きらめき』
キミの周囲にはいつも和ができていて、それを教室の隅から何時も見てるボク。
こんなボクにもキミはいつも挨拶してくれて、格好よくて明るいキミの周りのその世界はきらめいて羨ましくも、臆病なボクには到底手の届かない遠い世界。
キミは光、僕はキミみたいな人の影。
キミにはなんにも悩みなんか無くて、これからも輝いて眩しいまま先に進んでいくんだって僕は勝手に決めつけてた。
ある日僕はキミの秘密を知った。
これ以上痣だらけの腕にされたくなくて逃げ出した繁華街、サラリと長い髪にスラリとした身長に似合う綺麗なワンピース、見とれてしまう程の妖艶で美しい表情は一瞬キミとはわからない姿。
ボクに気づいて最初は逃げようとしたキミはボクの姿を見た瞬間気まずそうに表情を歪め
『幻滅した?』
って笑ったんだ。
キミは完璧だと決めつけていたのはボク、どんな人にも完璧な姿なんて無いのに。
その日からボク達は秘密を共有しあった、秘密を知ってからもっとキミはきらめいている。
『もしもタイムマシンがあったら』
直したい過去なんていっぱいある。
気になる未来もいっぱいある。
乗り込んで、過去行けば嫌な過去は直せるかもしれない
未来にいけばこれからの危機を乗り越えるかもしれない
でも…。
タイムマシンがあったら自分は駄目な人間になる気がする