『星のかけら』
土塊をひとつかみ
これもまた地球という惑星のかけら
『Ring Ring...』
土星の円環を揺らしたら轔轔と軋みをあげそうな気がする。
天王星の円環を傾げたら凛凛と真空をふるわせるだろう。
どちらも2.7ケルビンに淋淋と佇む、孤独だ。
そして土星や天王星の孤独と私の孤独は、
何ひとつ重なることはない。
『追い風』
どうにも手のかかる病気になった。
身体も心も病に喰われる。
鬱鬱として世界はどろどろ。
太陽の耀きは私にだけ届かない。
知らないひとが楽しげに会話する、
その笑い声すら私を嗤っているかのようだった。
世界は私を拒んでいるのだ。
医師もお手あげ気味。
薬も効果はない。
私は弱音を聞いてもらうために通院しているようだった。
「新しい薬が認可されたんですけれど」
仏頂面で医師は言った。
「試してみましょうか」
何度めの新薬だったろう。期待は既にない。
私は人形のように機械的に頷いた。
この薬も効かなかった。
期待しないから裏切りもされない。
私は漫然と顔をあげた。外は夕焼け空だった。
醜くてぐちゃぐちゃで気の狂れたようないつもの夕焼け。
――ではなかった。
空は燃えたつ紅に赫いていた。
身じろぎもしない強張っていたはずの心が揺れた。
紛れもなく、夕映えは美しかった。
世界は端然とそこにあった。
この薬は効いたのだ。
医学は私を取りこぼさずすくいあげたのだ。
医師は匙を投げてなんかなかった。
世界は私を棄ててなかった。
やわらかな風が吹いた。
私がその風に身をまかせれば、その風は追い風だった。
病が完治したわけではない。
それはわかっている。
それでも世界は進む。
私も同じ方向へ進める。
夕映えに向かって吹く風に押されて私は一歩踏みだした。
『君と一緒に』
光ない夜に歩まねばならないわたしのこの道に
きみが交叉してくれる可能性
そんな可能性がわずかでもあるなら
交叉をわたしは望むだろうか
天に駆けるとも
奈落に墜ちるとも
わからないわたしの道に
きみという一条の光を?
交わらなくていいよ
ともに在らなくていい
ただここからきみを見あげることができるなら
一瞬きみを手に入れて失うより
きみをずっと仰いでいるだけでいい
神さまを求める狂信者のままでいい
きみと一緒に歩くには
わたしはきっとずっと
―――過ぎるから
怠惰で醜くて、
そしてきみに恋しすぎているから
『冬晴れ』
冬空はひとならぬ青き血に充ちて神さまは今日も姿をみせない