『透明』
いつか掴めると思っていた。
でも
掴めなかった。
全国への出場。
遠い遠い夢だった。
透明で掴めなかった。
『…… ごめんなさい』
「謝んないでよ。あなたはまた来年もあるでしょ」
『でも』
「大丈夫よ。」
「あなたの声は誰よりも透明で美しいわよ。」
「来年は全国行って来なさいね。」
俺の理想のりおはもっと俺を愛してくれていた。
でも現実はそうはいかない。
『なぁ、付き合ってよ。』
「無理。」
俺のことは好きでは無いのか?
『こんなのりおなんかじゃないよ……』
「は?」
『俺の知っているりおはもっともっと俺を愛してくれて優しくて何時でもどこでもいっしょで俺と一緒に死んでくれるんだよ?』
「……ぁ?」
りおの声は震えていた。まずいまずいことを言ってしまった。
『ちょ、違、これは、』
「もう無理。」
消えてゆく彼女の声。そして薄れてゆく彼女の背中。
これ程までに美しいと感じるものはあるのだろうか?
春なのに毛穴という毛穴から何もかもが溶けだしてしまうほど暑い日。
「なぁ、だめ?俺じゃダメ?」
『だから、ダメではないけど嫌だ。』
「なんでよ。」
今私は告白されていた。
『…伯とは友達でいたいから。』
「……。」
「俺の何がダメなの?」
「俺、友達としてしか見られてないのか?」
「ダメなところ全部治す。」
「だから頼むよ。」
『無理。』
「なぁぁぁぁんでだよぉおぉ!」
『……』
『そういう所嫌い。』
「え?」
『え?じゃない。そういう所嫌いなの。』
「な、治す!治すから!」
『だめ。』
「悲しッ」
そのまま解散し家へ帰る。帰り道には小さな駄菓子屋がある。いつも寄っていく。
「おかえり。りおちゃん。」
『ただいま。』
優しいおばあちゃんがいつもおかえりと言ってくれる。
伯のことは私は好きだ。でも、友達という関係から外れるともっと気を使わなければならなくなってしまう気がする。
本当は好きと言いたい。でも言えない。
弱虫じゃん?