「泣かないで」
泣くことなんてない
ここで泣かなければ 可哀想な人にはならない
しゃんと背筋を伸ばしていれば
弱くて惨めな人にはならない
そして私は執念深いから
忘れてやらない
あと3年は 恨みがましく記憶の手帳に
残しておくよ
その頃には あなたは私の人生の中では
ほんの数行の価値すらない存在だ
お互い 何かしらの仮想敵が
ストレスのはけ口が 一人は居るのだ
だけど私は あなた以上に腹黒いから
誰にでも笑顔で本当の自分は見せないよ
だから泣く事なんかない
悲しくなんかない 多分
「キャンドル」
小さな火が
灯っていた
誰も気付かなくても
雪の日も
土日祝日も
年中無休で
小さな火だから
時々 忘れそうになるけれど
胸に手をあてると
自分だけの 炎が揺らめく
誰も見向きもしなくても
そこにずっと 燃えていた
「秋風」
秋風吹く 秋風吹く
眠れないこころに吹く
後ろ向きな言葉ばかり目に止まる時は
きっと心の中にすうすう 風が吹いているんだ
縮こまった手足を ゆるく伸ばして深呼吸
いち に
寒々とした夜空に 自分だけの光を探す
誰か助けて 誰かって誰だ
誰でもよくはない でも誰かじゃない
強張った身体を 丸まった背中を ゆるくそらして
そっと息をはく
誰でもない私が すうすうと風に吹かれながら
広くて狭い世界に 自分だけの灯りを灯す
「ススキ」
今夜はキツネの魔女の集会だよ
そんな声が背中から聞こえて来て
振り向いたら
女の子二人組がバスを降りようとしていた
それだけで
降りるつもりのなかった場所に降りてしまった
停留所の名前は 薄ヶ原
知ってる
昔 この近くに住んでいたから
そうじゃなければ いくら何でも
こんな無謀な事はしない
いつの間にか夕闇が濃くなり
女の子ズの姿はもう見えなくなった
ひとり 月明かりを頼りに歩き出す
そもそも 私は何処へ行こうとバスに乗ったんだっけ
向かう先に
月に照らされた原っぱが見えてきて
遅かったねえとキツネの女の子が
群衆の中で手を振っている
「脳裏」
改めて漢字で見るとドキッとする
のうりって こんな字面だったっけね
脳の裏っかわ
誰しも何かを思い出そうと集中すると
頭の後ろを意識するものね
はて?ってやつ
目で追う情報と並行して
記憶と思考をぐるぐる巡らせて
更には会話までしたりして
ヒトって凄い
時々その緻密さに振り回されて
疲れてしまうけど
そんな時はしばし目を瞑って
頑丈なカプセルの中に居る自分を
脳裏に思い描いてみる
大丈夫
意外と ヒトって凄い