川原

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8/9/2025, 3:32:27 PM

「風を感じて」

概ね準備は整った

半身を乗り出して 
林の向こうの水平線に目をこらす
早くこの岬まで来い
膝の感触を確かめながら
ゆっくりと立ち上がる

あしもだいじょうぶ
こえもだせるようだ

私によく似た顔が 涙目で頷き
掠れた声で じゃあねと手を振ってくれたが
その手は次の瞬間私の手に代わり
受け継いだばかりの身体に
あなたの記憶だけが残された

そして代わりに手を振る 沖に浮かぶ船に
わたしはここだ 
わたしたちのはなしをつたえるために
お前をよんだ


やれやれ 次の回収先で休憩にしよう
作業員はモニターに視線を戻した

テーマパークの自動音声機器のメンテナンスが
こんなに面倒だとは思わなかった
さっきも無人島を模した岸壁の上に一瞬
人影が見えた気がしたが
きっと疲れているのだろう
















8/3/2025, 1:11:04 PM

「ぬるい炭酸と無口な君」

君が好きだったレモンのサイダーは
まだ買えずにいる
いつか飲めるようになるのだろうか

皆 行ってしまった
わたし一人になっても
日々の暮らしは続く

ご飯を食べて 茶碗を洗い
湯を沸かし 洗濯物を干して

窓を開けて 風を確かめる

大丈夫 どうせなら図太く生きるよ
だからせめて 時々は
声を聞かせて貰えないかな
夢の中でいいから




5/29/2025, 11:30:22 AM

「渡り鳥」

昨日の私は別人
全部リセットして
次の街へ行こう

嫌な事があっても
好きな人につれなくされても
その時辛くても
時が経てば案外平気になる事を
大人の私は知っている

別の自分になったと思えば良いのだ
知らんぷりしてひとり 
群れを離れて悠々と
空を游ぐ

5/14/2025, 11:29:40 AM

「酸素」

別に吸うても味も香りもしないでしょうが

嬉しい時には香ばしく
心配事があるとチリチリ辛い

やってしまった後悔の苦さ重さよ
どろりと背中にのしかかる圧よ

ゆっくり深呼吸して
痛む胸をさすりながら
悲しみの位置を酸素と探ろう

辿りついた酸素は
二酸化炭素に変わり
私の代わりに 
淋しいとつぶやく

5/9/2025, 5:51:50 PM

「夢を描け」

最終の便で戻って来た
いちだんと大きな星をポカンと見ながら
ずり落ちるボストンバッグの持ち手を肩に戻しながら

何処に旅していても
私の家の鍵が鞄にあるように
何をしていても
手離せない夢はある

胸の奥に星が輝き続けている限り
未来が消える事はない
いつか扉を開くまで
夢の鍵を握りしめて









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