「一輪のコスモス」
ふとした機みに 足元に黒い穴が空いて
その穴がだんだん大きくなってくる
そんな不安に駆られる時
貴方の言葉が
ちょっとしたやり取りが
穴を少し埋めてくれる
ここからは自分で埋めよう
最後に一輪 花を植えよう
その花が
いずれ誰かの心にも咲くと良い
落ちないように 目印になれば良い
「台風が過ぎ去って」
台風が過ぎ去っても
また 次の台風が来るわけで
人生の何度目かの嵐
私も あなたも
何度も 雨を凌いで 風に立ち向かって
それだけ選択肢も多かった
あの時 こういう道もあったかと
心を担保にそれでも進んで来て
自分を信じる力も尽きかけた
だけどだから
物凄く頑張ったし ピカピカに輝いているよ
その辺の若造には
なかなか真似出来る事じゃない
週末のファミレス
ドリンクバーのお代わりを飲みながら
両手の拳をグーにしたら
テーブルの向こうで
やっと 彼女は笑ってくれた
「風を感じて」
概ね準備は整った
半身を乗り出して
林の向こうの水平線に目をこらす
早くこの岬まで来い
膝の感触を確かめながら
ゆっくりと立ち上がる
あしもだいじょうぶ
こえもだせるようだ
私によく似た顔が 涙目で頷き
掠れた声で じゃあねと手を振ってくれたが
その手は次の瞬間私の手に代わり
受け継いだばかりの身体に
あなたの記憶だけが残された
そして代わりに手を振る 沖に浮かぶ船に
わたしはここだ
わたしたちのはなしをつたえるために
お前をよんだ
やれやれ 次の回収先で休憩にしよう
作業員はモニターに視線を戻した
テーマパークの自動音声機器のメンテナンスが
こんなに面倒だとは思わなかった
さっきも無人島を模した岸壁の上に一瞬
人影が見えた気がしたが
きっと疲れているのだろう
「ぬるい炭酸と無口な君」
君が好きだったレモンのサイダーは
まだ買えずにいる
いつか飲めるようになるのだろうか
皆 行ってしまった
わたし一人になっても
日々の暮らしは続く
ご飯を食べて 茶碗を洗い
湯を沸かし 洗濯物を干して
窓を開けて 風を確かめる
大丈夫 どうせなら図太く生きるよ
だからせめて 時々は
声を聞かせて貰えないかな
夢の中でいいから
「渡り鳥」
昨日の私は別人
全部リセットして
次の街へ行こう
嫌な事があっても
好きな人につれなくされても
その時辛くても
時が経てば案外平気になる事を
大人の私は知っている
別の自分になったと思えば良いのだ
知らんぷりしてひとり
群れを離れて悠々と
空を游ぐ