「風を感じて」
概ね準備は整った
半身を乗り出して
林の向こうの水平線に目をこらす
早くこの岬まで来い
膝の感触を確かめながら
ゆっくりと立ち上がる
あしもだいじょうぶ
こえもだせるようだ
私によく似た顔が 涙目で頷き
掠れた声で じゃあねと手を振ってくれたが
その手は次の瞬間私の手に代わり
受け継いだばかりの身体に
あなたの記憶だけが残された
そして代わりに手を振る 沖に浮かぶ船に
わたしはここだ
わたしたちのはなしをつたえるために
お前をよんだ
やれやれ 次の回収先で休憩にしよう
作業員はモニターに視線を戻した
テーマパークの自動音声機器のメンテナンスが
こんなに面倒だとは思わなかった
さっきも無人島を模した岸壁の上に一瞬
人影が見えた気がしたが
きっと疲れているのだろう
8/9/2025, 3:32:27 PM