「ススキ」
今夜はキツネの魔女の集会だよ
そんな声が背中から聞こえて来て
振り向いたら
女の子二人組がバスを降りようとしていた
それだけで
降りるつもりのなかった場所に降りてしまった
停留所の名前は 薄ヶ原
知ってる
昔 この近くに住んでいたから
そうじゃなければ いくら何でも
こんな無謀な事はしない
いつの間にか夕闇が濃くなり
女の子ズの姿はもう見えなくなった
ひとり 月明かりを頼りに歩き出す
そもそも 私は何処へ行こうとバスに乗ったんだっけ
向かう先に
月に照らされた原っぱが見えてきて
遅かったねえとキツネの女の子が
群衆の中で手を振っている
「脳裏」
改めて漢字で見るとドキッとする
のうりって こんな字面だったっけね
脳の裏っかわ
誰しも何かを思い出そうと集中すると
頭の後ろを意識するものね
はて?ってやつ
目で追う情報と並行して
記憶と思考をぐるぐる巡らせて
更には会話までしたりして
ヒトって凄い
時々その緻密さに振り回されて
疲れてしまうけど
そんな時はしばし目を瞑って
頑丈なカプセルの中に居る自分を
脳裏に思い描いてみる
大丈夫
意外と ヒトって凄い
「一筋の光」
買い物してたら
期間限定のお菓子が店頭に並んでて
これ あの人が好きだったなあって
だってミルキーのソーダ味ですよ
メリーのパチパチ弾けるチョコとか
よく買ってたんですよあの人
でもあの頃はもう食欲が落ちていて
酸っぱいものとかわさびとか
刺激のあるものばかり食べていたから
精一杯 パチパチの刺激で就業時間まで
耐えていたんだろう
懐かしくて一瞬 手を伸ばしたけど
やめて のど飴を買いました
あの人は一筋の光でした
光を失った世界で
進み続ける為に 私は今日は
プロポリス入りののど飴を買って帰りました
「眠りにつく前に」
布団に入ってから
その日あった事の
ひとり反省会をよくやる
あの一言は余計だっただろうか
あの一言が足りなかっただろうか
あの人にこんな事を言われた
ちきしょうめ
でも大概は
眠りにつくと
翌朝はさっぱりリセットされていて
リセットされてない事だけが
大きな問題として靴の先に入った小石になる
誰かに話して
靴を脱いで小石を払うように
リセット出来る事もあるし
話した事が 別の小石になる事もある
自分で入れた小石なら
いっそ自分で払ってしまおう
明日の朝の私のために
バッサバッサ払い落として
枕元に綺麗な靴を揃えて眠ろう
「子供のように」
子供のように じゃぶじゃぶ泣いて
幼子のように 地団駄を踏み
赤子のように 無防備に眠る
目が覚めたら
世界はひと皮剥けていた
傍に世界一つ分の抜け殻
新品のリモコンにくっついてる
フィルムのよう
まぶたは目やにでバリバリ
取り敢えず抜け殻を手に取り
ぼんやり眺めている自分は
大人なのやら子供なのやら
日の光を反射して 眩しい抜け殻に
鏡のように
むくんだ瞼の女が映っている