「終点」
最終電車で寝過ごして
見知らぬ駅のホームに降りた
見知らぬ改札 初めての街
気付けば荷物も何も持たず
幼な子になって 誰かを待っている
追い越して行く人達は皆
いつかどこかで見たような横顔
私は誰を待っている
そもそも何処へ行こうとしていたのか
不意に名前を呼ばれた気がして
それが誰の声ならと期待した瞬間に
すべてを悟った
最期まで手を握ってくれていたのが
貴方であればと
「私だけ」
春からうちの会社に来た人は
とても明るくて好奇心旺盛で
多趣味で 物知りで
少し 羨ましかった
話していてもしやと思っていたら
家族構成ちょっと似ていた
うん 何となく
誰かに頼る道を選んで来なかった
そういう親近感はあった
取引先の人がキツイという噂話の後に
ぽつり
「私 人が 苦手なんだよねえ」と
その人は言った
意外
でもわかる
私も
私だけだと思ってた
真っ黒な自分を見せたくなくて
明るく 鈍感に振る舞っていた
同志
でも同僚以上に親しくはならない
お互い人が苦手だから
心の奥では人を信用していない
裏切られて傷つかないよう
笑顔の仮面を被っているから
同じ湖の上で別々のボートに乗り
それぞれの岸を目指す私達が
目配せしながら見上げる夜空よ
「この道の先に」
東山魁夷の「道」
あなたの教科書には出て来ましたか
何の変哲もない田んぼのあぜ道
だけど眺めていると
無性に懐かしくなる
結局はふるさとの山に帰りたくなる
私はここでも頑張ったよ
頑張って頑張って 疲れてしまったよ
あの絵は 帰り道なんだろうかそれとも
歩いてきた道を 振り返っているだけで
まだまだ先は続くのだろうか
この道の先に
誰かが待っている気がして
また一歩 足を前に出す
「窓越しに見えるのは」
今日 友人と会って
愚痴を聞いて貰ったのだが
自分ばかり喋って
帰って来たら自己嫌悪で落ち込んだ
窓の外には今日1日分の後悔が立っていて
よくもまあ おのれの感情ばかり垂れ流すネと
カーテンに再現映像を映し出し
止める気力もなく
涙すら出ない私の代わりに
過去の映像を逐一チェックしながら
可哀想な奴だと泣き始めるのだった
ねえ後悔
あんたはいつも後ろに立っているから
そりゃあ歯痒くもなるよね
でも今夜は 部屋にあげる余裕はないんだよ
今はただただ眠りたいだけ
胸の痛みを鎮めたいだけ
ここではないどこか
わたしではないあなた
あなたではないわたし
わたしではないだれか
わたしでもなく
あなたでもない
だれかが
何処かにある
ここではないどこかにいる
それを貴方が見ている背中を
ぼんやりと眺めている私
泣きはしまい
とうに気付いていた気がするから