冷たい光が窓から差す。
まだ暖かい秋の夜。
窓際にたたずむ君を私はまだ責めれられずにいた。
白い肌に乗った真紅が微かに微笑む
「今夜は月が綺麗ね・・・」
黙ったままの私の様子を楽しむかのように。
ヒラヒラと手を動かし先ほど踊っていたステップを踊る
嘲笑うかのように私の周りをくるくると黒のハイヒールが舞う
くっ・・噛んだ唇に血が滲む。彼女の手を乱暴にひったくる。
「フフッ・・口が聞けないわけじゃないでしょ。
レディが月が綺麗と言っているのだから返すのが紳士でなくて?」
何かを渇望するような恍惚とした表情は月光の下では、
なんとも妖艶な香を放つ
「まあいいわ・・今日は充分楽しめたわ。」
さっと手を振り解かれるとともに胸ぐらを引き寄せられる
「また今度返事を聞かせてね・・・・」
耳元に息がかかるのを感じるのと同時に首筋に鈍い痛みが走る
!?
「また今度会いましょう!!」
首元を抑えると同時に部屋の外に出ていく彼女にやっと理解が追いついてくる
やられた・・・後悔ともつかぬ感情を胸に窓を見る
月明かりに映る首元にはくっきりと真紅の花が咲いていた
「なんでもないわ」
決まって君は僕にそう言う。その虚な眼差しはいつも僕じゃない何かを思って空を彷徨う。
それが僕にはとても不安で。
ただでさえフッと僕の元から消えてしまいそうな君を
引き止めるように君の手を握る。
「ふふっ、怖い顔してどうしたの…」
少し驚いた顔の後、すぐに僕をからかう笑みを浮かべる
子供をあやすように、スッと伸びたか細い手が僕の頬を撫でる
きっとぼくはとてつもなく情けない顔を君に見せているんだろう。
クスクスと微笑みながなら僕の首に腕を絡めてくる
今日は冷えるわね…
この人を私は知っている!
静寂の中私の声だけが駆け巡った。
「さようでしたか」キャンバスにかけられていた布のほこりをはらいながら男は言った。
「これをどこで!!作者は!!この絵の女性は何処です!!」
興奮気味に私は男に詰め寄った。
そんな私を男は嘲るような視線を送りキャンバスの前に立った。
「貴方はこの女性を知っているとおっしゃった。
でも何処で?と聞かれて場所が思い浮かぶでしょうか?」
私の興奮はその言葉にサッと消え、変わりになんとも言えぬ奇妙な感覚に襲われた
かじかむ手で窓を開けると、ゴウッと冷たい風と共に一面の銀世界が私の視界を瞬かせた。
それは、蜃気楼だつた。
真夏の中の幻想、ボヤラとした頭の中のほんの1ページ