夜の海
夜の海に憧れていた。
ささやかなさざなみを聞きながら眠ろうと思ってたのに。
真夜中。眠れない。今からいけないことをするんだと思うと、ワクワクが止まらない笑
ショルダーバッグに手帳、ペン、お金、そしてお気に入りの服を着て、できる限りひっそりと、家を出た。
今日の相棒はビンテージの実用車。こういう日には電動ママチャリよりもベターでしょう?
とりあえず海に行こうと思いますよ。
聞こえてくるのは偶にタイヤとアスファルトの摩擦音、あと酔っぱらいの声くらい。意外と静かなんですよこの子。
てか大丈夫か酔っ払い。帰れる?
目的地なんて特に無いけど、近づいてくるにつれて大型車が増えてくる。ぼくのことなんて多分見えてないよね。今日はなんだかそれが嬉しい。
着いた。砂浜に体育座りする。波の音を子守唄に、心地良く眠れると思ってた。飲まれたって良いとも。
恐怖。波はまるで大地を引き裂くような音を立て、こちらに猛スピードで迫る。これ、嘘じゃない。
ぎゅっと自分を抱き締めたまま動けない。
目なんて瞑ってられない。
その瞬間に飲まれてしまいそうで。
結局一睡もしないで迎えた朝は、綺麗。
お腹空いた。カフェ行こう。
そして、褒めて?
がちゃ。おう。寝とうかと思った〜どこ行っとったん〜?
それを私に頂戴。
使ってやるから。
叶うわけないから、ちょっと強気。
落下
どこであろう。趣深い暮らしを両手に携えた広い石畳の一本道は上へ上へとうねっている。
いつもならそこを行商やらが行き交っているが。
ひどく賑やか。
今、数十を率いこの街を踏んでいるのは若い女のようだ。
どこまでも届く音を叫びながら衆は闊歩している。
私は上から彼女らを一瞥して、机の上に放られた本を手に取って眺める。退屈だった。
音が近くで止んだぞ。
窓から覗けば、あの女は上を仰ぎ、か細く歌っていた。
目の先は、ああ、あの少女の部屋か。
気づけば数十だったのは最早数えられないほどに増し、
皆が女を見つめている。
突然、壊れそうなほどの音を立てて開いた窓から可愛らしい顔が一瞬のぞき、すぐ消えた。
歌もそのうち消えた。
なんだ?
人混みのせいで見えない。
急いで階段を駆け下り、人を掻き分け。
気持ち良さそうに抱き合うふたりがいた。
赤が次々と落ちている。
少女か。
私は感動した。
心がどこまでも落ちていく。
数いっこだけ増えただけ
なにも変わらずなにもせん
わたしむかしは一切忘れ
寄り添えんで添われもせん
ここらでひとつ
はじいてやろか、
言ってやるくち、また笑う
"1年前"
を、思いつつ、。
追記
「を」 を あの「も」 にはじこうか、どうしようか。
5コール。
もしもし?
ねぇ、今日満月なんだって
そこから見える?
くれぐれも綺麗だなんて言ってしまわないように、
なんて思ってたのに、
ぽんと言ってのける君。
『月に願いを』
2024/6/22の夜のおはなし