いす

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12/29/2023, 6:30:31 PM

「みかんの皮の剥き方にもいろいろあるんだよ、知ってるか」と訊くので「らしいね、やったことはない」と答える。1個食べたら充分だし、1個のみかんを食べるために他の娯楽を見出す人間ではないので。
「見て」
かたつむり、花、いもむし、S字。
「ゲゲゲの鬼太郎が流行ってるらしい」
目玉親父のような。みかんから胴と手足が生えている。
器用に剥かれて彩られていくみかんを見る。
「誰がこんなに食べるんだ」と訊けば「君と私が」と答えが返る。これからもひとりのときはいつものように剥いて食べる。散乱したみかんの皮を片づけながら今この一瞬を笑う。

12/29/2023, 6:13:01 AM

なけなしの休みが始まったがその間にお前の誕生日があるからどうにか気持ちは上がる。食事に行く約束をしている。外食をあまり好まないが、というか食事自体をあまり好まないのだが、お前がいるだけで心待ちの約束になる。俺は本来怠惰なので、わずかなこの冬の休みすべてをただ俺の怠惰のために過ごしたいが、同時にお前のことを愛しているので、お前が楽しいことをしてやりたいとも思う。
愛など情けなど慈しみなど。抱えて生きることになるとは思いもしなかった。

12/28/2023, 3:04:08 AM

子狐はもう子狐ではなくなったのであの日買った手ぶくろをそっとそっと引き出しの奥にしまいました。ほつれや空いた穴を、母狐もしくは自分でずっとずっと繕ってきましたが、子狐はもう子狐ではなくなったので、大きくなってしまったので、その手にはもっともっと大きな手ぶくろが必要になったのです。子狐はあの日買った手ぶくろが大好きでした。日を追うごとに自分の手に入れたその手ぶくろがどれほどの宝か知っていきました。でももう手ぶくろはその手に見合いません。母狐はもういません。あのお店の場所ももうわかりません。大きな手ぶくろが必要なのに、冬が来ます。どうする?どうする?子狐は困っています。この手の冷たさと、どうやって生きていく?

12/26/2023, 4:09:45 PM

だといいね。という他ない。今の私には興味の浅い話だ。
変わらないものはないと良いね。いつか海は二分されその地底を剥き出し、いつか太陽は西から昇り、いつか私たちはその太陽に直に灼かれてうしなわれる。その前に君を黄泉のくにから取り戻す。そうだと良いね。
私の世迷い言に君は応えない。
おそらくそちらの機体はすでにcoldに移行し、元々つめたくかたくなっていた君の軀はさらにつめたくかたくなって、腐敗して死にきることも叶わなくなった。日々刻々と作り変えられていく私の軀が、君に触れた箇所の血肉をすべて書き換えて忘れていく。君がいない事実も更新されていく。死にきれなくなった君が日々を継続していく。継続と変化はほぼ同義である、と私は受け取っている。
cold、私の認識そのものをいまここで止めることは可能か。
万物の無変化を死者たちだけが勝ち取っていくことがどうにもゆるせなくてこまる。

12/26/2023, 6:58:07 AM

ピアスのキャッチがない、と家に着いてから気づく。本体はあるのでそれで良しとしたいが対になっていないものを見るのは少し落ち着かない。そういう欠けた物の補い方にいよいよ疲れてしまったのが今年のクリスマスだった。補わなければならないものである。欠けたままに出来ないものである。不充分なまま、不完全なまま、対を演じてみせて笑ってやるものである。そういう心のいなし方が否応なく目について鼻についてしまった。ピアスのキャッチがない。本体はあるのでそれで良しとしたい。すべきである。君からのメッセージが届いている。いびつな補いの、不完全な対のその隙間を埋めるように、一言一言を噛み砕いで舐め取って読んでいく。

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