見た夢を書き記している。大体400字ほどに纏める。それとは別に日記をつけている。現実に起こったことを書き記す用だ。こちらはせいぜい100字といった程度である。短文SNSのおかげで何となく400字や100字がどれほどの感触なのか、伝わりやすくて助かる。日々が400字と100字に詰められていく。その程度の日々と言ってしまっても良い。400字と100字にそれぞれ頻出する語句しない語句というものがあって、例えば後者には“君”が多いが前者に“君”が出てくることはない。記録を始めてから一度たりともだ。もう5年になる。“君”と使わずとも記せるが、400字の方に一向に出てこないのでどうにも手放すことができない。君、そろそろ出てきてはくれないか。と記して眠りにつくことにする。
さてどうするかと君は額に手をやる。夜のうちにここを発てたらまた違っていた話だったのかもしれない。なしくずしに情を語り合い、愛を交換した。螺鈿に彩られた箱に詰めるには、少しばかり粗雑な愛を。
hallelujahと声が聴こえる。声のようなものが。あなたの耳にはhallelujahとして届くが、あなたに向けられたものではない。それはよくよくあなたも解っている。光と闇の狭間すら手に入れたらあの人はどうなってしまうのだろうかとあなたは怯えている。このhallelujahは光側からの声なのか、闇側からの声なのか。それとも今から失われる狭間の自由の断末魔なのか。祝福と呪いの音である。鉛が貫くその瞬間をあなたは見守っている。ねえ、すべてを失い尽くして、すべてを奪い尽くして、すべてに奪われ尽くして、あなたはどこで眠るというの。
この力で、いつか君を遠ざけて、その命の助けのひとつになれば御の字だ。それ以上望みはない。最初に望んだことはすべて叶えられてしまった。ここまでの過程で望んだこともおそらくすべて叶ったとしてもいいだろう。私によって。あるいは君によって。
「うるさいな、うるさい。聞きたくない」
君の一歩は大きいから、そして力強いから、私の望みをことごとく無碍にして踏み荒らしていく。意見の合わなさが、相反が、お互いの存在を浮き彫りにして、どうにかここまで見失わずに済んだ。だからこそ叶えられた願いによって私が構成されていると君は知らない。愛してるよ。万物すべての質量に勝るほど、深く、大きく。君はそんなもの愛じゃない認めないと唇を噛んで私を抱きしめるけど。
涙も乾いてしばらく経つ。雨は地に降りることを拒絶している。水は尽きている。生きとし生けるものはすべてみな水が必要、それは昔話になった。いずれ夢現のお話になる。かみさまは第二の創世記をお始めになり、その終日に「泣かないで」と仰せになったので、あらゆるものは泣くのをやめた。空も大地も赤子も老人も泣くのをやめた。悲しみも喜びも怒りも行き場をなくした。渇望、ということばを私は本で読み、辞書で引いて、時折呟くなり書いてみるなりしている。さんずい、日の匂い、亡、月の王。かつぼう。かわき。泣くとはどんなものかしら。泣くとはどんなものかしら?