違いはわからないがお前が秋風だというのでそうなのだろう。四六時中吹いていて、私はただ晒されている。無風とやらもあるらしいがここはひっきりなしである。風たちがこうしてずっと喚いているから寂しくはないが、お前の声を容易く聴き逃してしまうので私はそれなりに必死だ。お前は無の魔法使い。いつか私にやさしく言った。
「止めて欲しいか?」
出会った最初の日だったような気もするし、今しがた言われた気もする。
「何を?」
お前は片眉を吊り上げる。私のからからに乾いた喉から出る小さな音をお前は難なく拾って見せる。止めて欲しいものがあるとすれば、いまこの瞬間。お前が笑ってみせる、不機嫌になってみせる、疑ってみせる、またねと私に背を向ける瞬間、やさしいだけのいまこの瞬間だよ。
たぶん祈りだ。もう会えないことにあなたは薄々気づいている。それでも口にするのならそれは祈りだ。そうあれかし。あなたが贈る宝石が、こぼれた愛が、彼の行く道を今だけでも照らしてくれるようにと、笑って手を振る。
用意はいいか。リスクを取る覚悟はできたか。勝ったところでおまえは喪うが、それでもいいか。日常に戻ったところでぬるいだけの世界を、おまえは続けてゆるせるか。
レプリカ。君がそうである。オリジナルの天の御使たちは失われてしまった。君は飛べない。誰も飛び方を知らない。君は博物館に住んでいる。ガラスの向こうで羽を動かしてみる。人々は色めき立つ。君は飛べない。正解を知らない。ここにはガラスがあり、天井があり、飛べたところで行く場所もない。
幽霊の正体見たり枯尾花、と言ってお前は笑うが生憎ここで揺れるススキはすべてただしく幽霊である。猜疑と呪いが蔓延っていて、それでもどうにもあたたかい場所である。かつて命であったものの溜まり場なので不思議ではない。
「連れて帰るのか」と言う。俺が。枯れた声が出る。お前の前には深く深くこうべを垂れたススキがあり、轟々と揺れる風にピクリとも反応しない。「死にたてほやほやだから揺れ方ってモンが分かんねーんだな」とお前は笑う。それから「連れて帰らない」と続く。ならどうしてその鎌を持ってきた。死神が持ち歩く鎌よりよっぽど粗末ではあるが、どうして。
「俺は生きてるから」
お前は三度笑う。
「分からねーだろう、生きてるから、持ち帰らないと決めて会いに来たって鎌を持ってきちまうんだ」「お前はもう風の乗り方も覚えてしまって、そんなことをとうに忘れたんだろうな」