そういう想いがあればよかったのにね。繰り返し繰り返し忘れて、それでもまた出逢って、いくらでも新鮮に嫌って、何度でも鮮烈に怒って、愛して、慈しんで、悲しんで。忘却の手つきだけは忘れないこの身で、何もかもに疲れてしまったと言うには贅沢が過ぎると知っている。それでもそういう想いがあれば良かったね。そうすれば君を、何よりも輝く一番星として、終わりの日まで見上げていられるんだ。
それから俺たちはその部屋に住みつき、お互いがお互いを好きでなくなる日まで共にいようと笑いあい抱き合って眠った。下りたブラインドをふと掻き分けて外を覗くと、星がチラチラとこぼれているのが見える。そのやわらかな光が、随分お前に似ている。星など見上げたこともなかったのに。お前は俺を気にも留めずに笑う。
「君のほうが似てるのに」
ふさわしく生きていく。ろくでなしのならず者に降る光にしては少しばかりやわさがすぎる気はするが。
丸っこい目が、柔らかい瞳が、星空を流し込むその瞬きが、あなたを掴んでどうにも離さない。過ぎていく風が、あなたを拒絶した思い出の季節を引き連れてこようとしている。この冬を君ともう一度乗り越えられたなら、もう一度その手を掴んでもいいだろうか。
高みへ行くべきである。幸福を目指すべきである。それが人の営みである。それらをすべて捨て去って、あなただけが手の届かないところへ行ってしまった。ひとじゃなくていいよ、こうふくじゃなくていいよ、あいじゃなくていいよ。あなただけが叶えてしまった。階段を上がる。下る。上がる。上がる。上がる。どこまでも平らな土地で、あなたがまっすぐな地平線を見ながら笑い転げ回る姿を夢想する。
泣いた?笑った?怒った?その冷たい体で、もう子どもではいられない体温で、温めあってやっとひとり分の体温になって、そのくせずっと一緒になんていられなくて、泣くにも笑うにも怒るにも時間はなくて、ただ時間がなくて。目に焼き付けて生きていく。何の感情由来かもわからない涙を互いにこぼしながら、のこされたこの瞬間をわたしたちの手で永遠にする。