【幸せに】
やった。ようやく嫌いだった母を殺せた。これ程までに幸せなことは無い。
世界で一番嫌いな母を殺めてからおよそ3年。
私は未だに警察に捕まる事は無く、寧ろ罪は問われていない。何故ならば母を殺めたのは俺だと父が嘘をつき自首をしたからだ。頼みもしていないのに、勝手に。
私はそれに疑問を抱きつつも、父が勝手に自首したんだから、そのままにしておこう、と父の謎の自首については一切触れずに生きている。
『みーちゃん、どれにしようか?』
『みぃ、みーちゃんね、このお人形さんがいい!』
『可愛いお人形さんだねぇ〜、それが良いの?』
玩具屋のショーケースを眺める親子が居る。母親と、きっと5歳にも満たない女児だろう。
あぁなんて幸せそうな顔をしているのだろう。私は母親が居ない方が幸せだと思うのに。
そして、19歳の今でも時々思う。
本当の幸せとは何か。
【何気ないふり】
今日も学校から家に帰りリビングへと行けば、そこには可愛らしい色に染めた髪を巻き、厚化粧をするお母さんが居た。今日の夜も誰か男の人と遊びに行くのだろう。ゴミやものでぐちゃぐちゃな床を慣れた足つきで歩き、お母さんの方へと近付いた。
『あ、あのね、お母さん、今日私部活で』
『煩い。』
あぁ、今日もまたお母さんの一言で一蹴された。
お母さんはいつもそう。私の話を聞いてくれない。けど私はそれで良い。もう慣れたから。
私はいつまで経ってもこの状況に慣れてくれない感情に苛立ちを覚えながら、唇を噛み締めてまた言葉を発した
『そういえば明日…』
『耳ついてないの?煩い。』
まただ、お母さんはやっぱり私を相手にしてくれない。
私はお母さんに話し掛けるのを諦め、床に落ちているビールの缶と目を合わせながら、リビングの隣である自室へと向かおうとした。
するとお母さんが一呼吸置き、
『あんたさぁ、習い事、なんで行かないの?お母さん毎月お金払ってるんだけど、貧乏なんだけど、あーあ、どっかの誰かさんのせいでお母さんが可愛くなる為の費用が削れていくなぁー、あーあ!』
また言ってる。私の話す事を何一つ聞かず、自分に非が回る事については沢山物を言う。確かに、習い事に行かない私も悪い。けど、こんな仕打ち、酷いだろう。目頭が熱くなり、唇が震えた、けど私は泣きそうになるのを必死に抑え、笑顔でいた。何気ないふりをした。
そして時々思う。私は酷い子供だ、と。
母子家庭で私を育ててくれたお母さんの心を支えて上げれず、満足な結果を出せず、いつしか愛して愛される関係である筈のお母さんを恐怖の対象として見ていた。
私はこれで良いのだろうか。このまま愛されず、愛してあげられない関係で良いのか。お母さんは私のことを気にかけてくれないのだろうか。
ねぇお母さん、一度でいいから、私を愛して。
〜 愛着障害 〜
【ハッピーエンド】
私のお腹や太もも、背中には傷が沢山。
お母さんは今日も罵詈雑言を吐き、お酒を飲んでる。
お父さんは先日天国へ。
お母さん、早く優しいお母さんに戻ってね。
お父さん、天国では幸せにね。
私、早くしあわせに近付けますように。
【バカみたい】
ただいま〜っ!ねぇ聞いてよ!今日部活でミナコが顧問のモノマネしてて〜、私達がそれで爆笑してる時に顧問が後ろのドアからガラガラって扉開けてきて、ウチらはそれに気付いてるワケ、でもミナコはそれに全く気づかないで顧問のモノマネ続けててさ、ウチらもこれはやばい。って思った訳。でも敢えて止めずにいたら顧問がミナコの肩トントンってして、『ちょっとお話があります。』って言って連行されたの!笑ヤバくない?
てか、アンタ昔からそーいう話好きだったっしょ?だからさ、もっかい笑ってくれないかな、?
私はもうこの世には居ない優しい笑顔をした彼氏の写真に向かって、今日あった出来事をつらつらと話した。話終われば鼻の奥がツン、となって次に目から暖かい何かが零れ落ちてきた。
【夢が醒める前に】
私の手の中には七色に輝く光。手を開くとそれは一気に自分の元から離れていって、終いには見えなくなってしまった。
あぁ、行かないで、私から離れないで。
ピピピピ,ピピピピ,
目覚まし時計が騒がしい。
今日も憂鬱な一日が始まる。
今日もまた、家でも外でも息を潜める