私の腕の中で冷たくなってく貴方を抱きしめて、ぼろぼろ泣いた。最期の場所に私を選んでくれたことが嬉しくて、でも悲しくて。
そうして、私は今更気がついた。
愛してたんだ。私、貴方のこと。
誰よりも、ずっと。
私が生きるこの暗い世界の中で、あなたは私の唯一の希望だった。あなたがいたから私は頑張れたのに。
あなたは変わってしまった。
勉強を始めて、スポーツクラブに通い始めて、友達を作るようになったのだ。
かつて私が、唯一見下すことのできた人。
あなたのおかげで私は立ってられたのに。
100点のテストを持ったあなたは、赤点の私に笑顔でこう言った。
「ありがとう!君のおかげで私は頑張れたんだ!
君の姿を見て、君のようにだけはなりたくないなって!!
あなたは出来損ないだった過去の私にとって、ただ1つの希望だったよ!」
誰よりも強いと思ってたあの子は、
実は1人じゃ立てなくて、
誰も知らないところで泣いていて、
私の前では愚痴をこぼした。
「こうやって愚痴吐けるの、あなたしかいないんだ」
誰よりも強いと思っていた私の友達は、今まで見た誰よりも弱く見えた。
誰よりも弱いと思ってたあの子は、
実は1人で戦える力があって、
誰も知らないところで努力して、
私の弱さを全て受け止めてくれた。
「大丈夫だよ。私にいつでも頼ってね」
誰よりも弱いと思っていた私の友達は、今まで見た誰よりも強く見えた。
「昨日一睡もできなかった」
って友達に言ったら笑われた。
仕方ないじゃないか!だって今日は、彼女ができた年の初めてのバレンタインだ。
「そんなに心配しなくても、貰えるだろ」
うるさい。お前は実際に彼女ができたことがないからそんな事が言えるんだ。
心の中でぼやき、俺は空を見上げた。
晴天。絶好のバレンタイン日和だ!
大丈夫!もらえる!もらえるさ!!
震える拳を握りしめて、大きく深呼吸してから、学校への敷地へと踏み込もうとしたその時だった。
「おはよう」
彼女の明るい声が背中から飛んでくる。
俺が何か言う前に、彼女が口を開いた。
「これ、バレンタインのチョコ。家に帰ってからあけてね」
ちょっと上擦った声と、早口。
駆け足で去っていた彼女の耳は真っ赤だった。
「よかったな」
「……おう」
赤いハート型の箱に丁寧な包装。ピンク色のメッセージカードには『これからもよろしく』の文字が彼女の筆跡で踊っている。
俺の口角がいやがおうにも釣り上がる。
これが、あぁこれが、幸せなのだな。
「大丈夫だから!そのまま、待ってて」
扉の向こうで震えた声。
大丈夫なはず無いのに、それでも僕は何もできずに、扉の前で佇んでいる。
あぁ、この臆病者…!
こんな時に限って体が動かない!