オリジナル短編小説(3)
お題「星空の下で」
星空の下で、君想う。
憂いを帯びた、君の顔。
どこか悲しげなその顔は、いつの日か消え入りそうな雰囲気があった。
「アオ、どうしたの?…具合悪い?」
「…いや、なんでもないよ。…ねぇ、アカネはさ、世界って何でできてると思う?」
「…?…分からない…。」
「私はね、『絶望』だと思うんだ。」
「…急に、どうしたの?」
「…。」
この話の数日後、アオ…葵(あおい)は姿を消した。
理由は分からない。私が答えられなかったあの質問に何か関係があるのだろうか。
…『世界は絶望でできている』。一体、彼女は何を思ってそう言ったのか。彼女にそう言わせた原因は…。
私は、それからずっと彼女を探した。どこにいるのかは分からない。手がかりもない。それでも、いつかまた出会えると思ったから。
1年、また1年と時は過ぎていく。
未だ彼女は見つからない。それでも、私は諦めなかった。ずっと一緒にいたかったから。世界の端から端まで行く勢いで必死に探した。
「…見つけた。アオ。」
「…アカネ…。」
数年後、彼女を見つけた。彼女は、私を見て微笑んだ。
「…ほら、やっぱり。」
…?何が『やっぱり』なんだろう。
…そうか、そういうことだったんだ。
私と一緒にいることが、『絶望』だったんだ。
「…酷いよ。せっかく探しに来たのに。…帰ろ。」
「…。」
「…ごめんね。」
彼女は星空を眺めていた。
私は、ゆっくりと、手を伸ばす。
彼女は、アオはその場に倒れ込む。
…私の手によって。
家に帰る途中、私は眠っている彼女に言った。
「…また、2人きりになれるね。…今度はちゃんと答えれるよ。」
「私、世界は『ムラサキ』でできてると思うの…。アカと、アオが、混ざり合った世界。それ以外は、世界じゃない。世界以外のものは、私はいらない。…アオ。これは、『絶望』じゃなくて…。」
「…『希望』だよ。」
〜終〜
オリジナル短編小説(2)
お題「それでいい」
「それでいい」。君は確かにそう言った。
だから僕は、ずっと君のそばにいるんだ。
彼は、「それでいい」が口癖だった。学生時代のグループ活動、運動会の種目決め、生徒会役員選挙…。
社会人になってからも、会議等でいつも言っていた。
正直、彼は適当すぎると思った。でも、僕はそれが彼のいいところだとも思う。実際僕は、彼の「それでいい」という言葉に救われたことがある。
僕は学生の頃、いじめられていた。
蹴る、殴るはもちろん、嫌がらせは日常茶飯事だった。
そんな時、僕は彼に「もう楽になりたい。」と言った。彼は一言、「それでいいんじゃないかな。」と言ったんだ。そして僕は、その数日後いじめられなくなった。
それからの日々は、とても楽しかった。
暴力もなく、嫌がらせもない。毎日彼と平穏に過ごした。
「ありがとう、助けてくれて。」
彼は何も言わなかった。かっこつけのつもりかな。
社会人一年目のある日、彼は警察に捕まった。
一体何をしたのか、ずっとそばにいた僕にも分からなかった。
「君は何をしたの?なんで警察に?」
彼は答えてくれないまま、静かに連行された。
彼は、誘拐の疑いで逮捕されていた。
彼が、人を誘拐したのだという。
そんなはずない。僕がずっとそばにいたんだ。僕はそんなとこ、見てない。ありえない。
このまま黙って彼を連れていかせるわけが無い。
僕は、彼について行くことにした。
数日後、彼の家の庭から、白骨化した僕の遺体が発見された。
…そうだ。僕はあの日、彼に殺されたんだ。
彼に「それでいいんじゃないかな」と言われたあの日、僕は彼の家に招かれた。
「楽になりたいなら、手伝うよ。何をしたらいい?」
…僕は、もう、死にたいよ…。でも、勇気がないんだ。
「…わかった。手伝ってあげる。」
そう言って渡されたのは、目隠しだった。
「それをつけて、ここに立つんだ。」
彼の指示通り目隠しをつけ、指定の場所に誘導された。
しばらく彼は、なにか準備をしているようだった。
その準備が終わったのか、彼は静かに言った。
「3、2、1でいくよ。…3……2……1!」
その瞬間、僕の体は宙に浮かぶような感覚だった。あぁ、風が心地良い…。
緩く結んでいたためか、目隠しが落ちた。
僕は文字通り、『浮いていた』。
彼は、僕の願いを叶えてくれたんだ。
「これは、2人だけの秘密だね。」と、彼は優しい笑顔で言った。
『ありがとう』。その言葉は、伝えられなかった。
彼はあの後、殺人罪として罪を償うことになった。
牢屋の中で、僕は彼と一緒にいることにした。
たとえ彼に認識されなくても、こうなったのは僕のせいだから。
彼は一言、牢屋の中で呟いた。
「これでいい。彼との約束を破ってしまったから。」
〜終〜
オリジナル短編小説(1)
お題「1つだけ」
1つだけ、言えなかったことがある。
そう、たったひとつだけ。
そのたった1つの言葉だけで僕がこんなにも後悔することになるなんて…。
XXXX年○月✕日、僕は家の前で、ただ呆然と立っていた。
今日は、向かいの家の由利が引っ越す日だ。
彼女とは小さい頃から知り合いで、よく遊ぶ仲だった。
僕は彼女に、1つだけ、伝えたいことがあった。前からずっと言いたかった。今日こそ、今日こそ伝えなければと思うたび、声が出なくなる。
今日は言うんだ。絶対に。後悔する前に…。
しかし、今日も、声が出ない。時は刻一刻と過ぎていき、ついに彼女の家の荷物は片付いた。まもなく出発してしまう。
「…じゃあ、またね。」と、彼女は言う。
僕は、無言で彼女を見つめた。
…また、言えなかった。…もう、言えないんだ。
彼女が車に乗る。車はゆっくり走り始めた。
ふと、車の窓が開き、彼女が顔を出す。
「ずっと、大好きだよーーー!」
僕は、ハッとした。彼女の方へ走らずにはいられなかった。
僕は、彼女に大声で叫ぶ。
「ーーー、ーーーーー!!!」
しかし、やはり声は出なかった。
数日後、白と黒の世界がそこにあった。
大きな箱と、たくさんの花。
その中央には微笑んでいる彼女、由利の姿があった。その両隣には、彼女の両親も居た。3人で微笑んでいる。
動くことの無い表情が、そこにあった。
彼女が乗った車は、あの後交通事故にあったそうだ。
…僕は、そうなることを知っていた。
何度も、伝えようとしていたんだ。
見えない何者かに、首元を締め付けられるような感覚。そのせいで毎回、彼女に言えなかった。
「その車、呪われてる」
言いたかった。僕には見えたんだ。
呪われた車が。由利を殺そうとしているのが。
僕がそれを伝えようとする度、その呪いは僕を襲い、声を奪った。だから、伝えられなかった。
「…ごめん、由利。ゆっくり、休んでね。」
〜終〜