オリジナル短編小説

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オリジナル短編小説(2)
お題「それでいい」

「それでいい」。君は確かにそう言った。
だから僕は、ずっと君のそばにいるんだ。


彼は、「それでいい」が口癖だった。学生時代のグループ活動、運動会の種目決め、生徒会役員選挙…。
社会人になってからも、会議等でいつも言っていた。
正直、彼は適当すぎると思った。でも、僕はそれが彼のいいところだとも思う。実際僕は、彼の「それでいい」という言葉に救われたことがある。

僕は学生の頃、いじめられていた。
蹴る、殴るはもちろん、嫌がらせは日常茶飯事だった。
そんな時、僕は彼に「もう楽になりたい。」と言った。彼は一言、「それでいいんじゃないかな。」と言ったんだ。そして僕は、その数日後いじめられなくなった。
それからの日々は、とても楽しかった。
暴力もなく、嫌がらせもない。毎日彼と平穏に過ごした。
「ありがとう、助けてくれて。」
彼は何も言わなかった。かっこつけのつもりかな。

社会人一年目のある日、彼は警察に捕まった。
一体何をしたのか、ずっとそばにいた僕にも分からなかった。
「君は何をしたの?なんで警察に?」
彼は答えてくれないまま、静かに連行された。

彼は、誘拐の疑いで逮捕されていた。
彼が、人を誘拐したのだという。
そんなはずない。僕がずっとそばにいたんだ。僕はそんなとこ、見てない。ありえない。
このまま黙って彼を連れていかせるわけが無い。
僕は、彼について行くことにした。


数日後、彼の家の庭から、白骨化した僕の遺体が発見された。
…そうだ。僕はあの日、彼に殺されたんだ。

彼に「それでいいんじゃないかな」と言われたあの日、僕は彼の家に招かれた。
「楽になりたいなら、手伝うよ。何をしたらいい?」
…僕は、もう、死にたいよ…。でも、勇気がないんだ。
「…わかった。手伝ってあげる。」
そう言って渡されたのは、目隠しだった。
「それをつけて、ここに立つんだ。」
彼の指示通り目隠しをつけ、指定の場所に誘導された。
しばらく彼は、なにか準備をしているようだった。
その準備が終わったのか、彼は静かに言った。
「3、2、1でいくよ。…3……2……1!」
その瞬間、僕の体は宙に浮かぶような感覚だった。あぁ、風が心地良い…。
緩く結んでいたためか、目隠しが落ちた。
僕は文字通り、『浮いていた』。
彼は、僕の願いを叶えてくれたんだ。
「これは、2人だけの秘密だね。」と、彼は優しい笑顔で言った。
『ありがとう』。その言葉は、伝えられなかった。


彼はあの後、殺人罪として罪を償うことになった。
牢屋の中で、僕は彼と一緒にいることにした。
たとえ彼に認識されなくても、こうなったのは僕のせいだから。
彼は一言、牢屋の中で呟いた。

「これでいい。彼との約束を破ってしまったから。」

〜終〜

4/4/2023, 3:12:28 PM