人との距離感について普段からよく考える。
近づきすぎると相容れないところも見えてくる。それでも一緒にいられる関係性を作れればよいが、多くの場合そこで一歩引く。
つかずはなれずの間柄が平穏なのは間違いない。
この人とは合わないと感じても、どうしても切れない関係もある。家庭、学校、職場などで。
物理的な距離は置けないけど、心理的な距離は置きたい。双方が暗黙の了解で適切な距離感を保つのがベストだが、自分が遠ざかろうとしても向こうがずずいと詰めてくるときもある。
世の中には、寂しがりやなのに人付き合いを避けている人が意外にいそうな気がする。
仲良くなりたい気持ちはあっても、いろんな目に遭ううちに最初から人と距離を置くようになる。
自分だって人間関係の煩わしさと一人の孤独感のどちらを取るかと問われれば、迷わず後者である。
お互いに距離感を持って仲良くできればそれが一番いい。──距離感というか、遠慮というのはどんな関係性であれ大事だとつくづく思う。
『距離』
「泣かないで」というと舘ひろしの同名の歌がまっさきに浮かんで、他のことが出てこなくなった。
それくらい曲の中で連呼している。低音ボイスで。
俳優の印象のほうが強いが、はじめはロックグループで出てきた人である。といっても自分もその時代をリアルタイムで見たわけではない。
歌手としては他に『あぶない刑事』のエンディング「冷たい太陽」も有名だが、たぶん「泣かないで」が代表曲になるのだろう。
いわゆる歌謡曲はメロディが複雑ではないせいか歌詞がストレートに伝わるものが多いように思う。
『泣かないで』の歌詞を改めて読むと、別れ際の男の心情が綴られている。女のほうは一方的に泣くなと言われて困りそうだが、舘ひろしが低く甘い声で歌うといい感じに聴こえてくる。
あまり古く感じないが、調べてびっくり、リリースされて40年近く経っていた。
『泣かないで』
夏のはじまりは朝の地面のにおいで感じ、冬のはじまりは夜の空の空気で感じる。
うんざりするほど続いた熱帯夜がようやく終わり、気温が下がっていくのに合わせるように、夜の空気がだんだん澄んでいく。
やがて賑やかな虫の声がおさまり、しんと静かな夜が来て、輪郭をくっきりとさせた月が夜空に映える頃、オリオン座が視界に滑り込む。
ひんやりと透き通った空気。
そんなとき、冬の気配を感じる。
秋と冬の境目が一番好きな季節だ。
『冬のはじまり』
勝手に話を終わらせないでほしい。
最近、人との会話中にそう思うことがあった。
こういうことはたまにあり、こちらとしては共有したいことを話しているのに、相手は自分の用は済んだとばかりになおざりな返事で終わらせる。
投げたボールがキャッチされない。返ってくることを予期して投げたボールが地面に落ちてコロコロ転がっていくのを眺める。前のめりのまま、え〜?と心の中で間の抜けた声を出す。
人の話を聞く気がない。もしくは切り上げたいときの会話術、あるいは聞きたくないことを受け流す処世術なのかもしれないが、あからさまだとなかなか落胆する。会話の主導権はこっちにあると宣告されている気分になる。
次は塩対応をしてしまうかもしれない。
なんて、愚痴めいてしまったが、自分だって話が冗長だと切り上げたくなるときはある。
会話の終わりはなるべくなら軟着陸がいい。
『終わらせないで』
愛情なのか愛憎なのか、義務感なのか責任感なのか、惰性なのか依存なのか、本人たちも分かっていないけど一緒にいる関係もある。
一緒にいる理由を愛情だと己に言い聞かせている関係もある。
愛情という言葉に縛られて一緒にいざるを得ない関係もある。
満たされているときは素晴らしい言葉だが、時に便利な使われ方をする、時には重荷にもなる言葉。
愛情。
『愛情』