やわらかな光が顔にじわりと当たった。私は眩しさに目を細めながらゆっくりと、頭を起こす。
ふと、隣を見ると一緒に寝ていたはずのフィアンセが消えていて、代わりに綺麗に布団が畳まれていた。私は少し首を傾げながらシーツをさらりと撫でる。まだ、人の温かみが感じられるので、つい先程までここに居たのだろうかと寝ぼけたままの頭で考える。
ゆっくりとベッドから足を降ろし、眠気を覚ますように窓の傍に寄る。安物の薄いカーテンに、手をかけようとした時、違和感に気づく。
左の薬指に、きらりと輝る銀色の指輪が嵌っていた。私は昨日指輪を付けたまま寝た覚えは無いので、誰が私の指に嵌めたのかは明白だった。
それに、左手の薬指。私はこれが、どういうことを意味するのか知らないような子供では無い。
朝の太陽に向けて左手を翳してみた。指輪に光が当たるたび、きらきらと銀色の光を輝かせている。私が見てきたアクセサリーの中で、一番魅力的なものだった。
今日からきっと、慌ただしくなるだろう。だけどそれさえも、想像するだけで気力が湧いてくる。
今、リヴィングで寛いでいるであろう彼に、何を言おう。私は彼が愛しくて堪らなくなった
宵の、静まり返った頃。まあるく、綺麗な月が、窓の外から爛々と照っていた。私はその眩しさにいつもながら眼を細めた。
大きな月は、まるでこの世のものとは思えないほどに美しく、私は異世界に居るように錯覚した。
月の光に促され自然と目を閉じると、思ったよりもすぐに眠気が来た。私はそれに抗うことなく、ゆっくりと意識を夢へ移した。
ーー
目が覚めると、既にもう暁の時刻だった。といっても、遠くの方が、オレンジ色に染まっているだけで、こちら側はまだ薄い蒼が少し白ばんだ様子で空に浮かんでいて、その、向こうに見えるオレンジ色の朝焼けは真夜中の月よりちっぽけに思えた。
けれど、数分と経てば、こちら側もすっかりオレンジ色に染まり月より眩しい光が私の肌を刺激した。
私は別に、特別この情景が好きだという訳では無いけれど見る度に、なんだかせつない気持ちになってしまう。