単眼冥土

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11/11/2023, 10:46:33 PM

飛べないのならばこの翼になんの意味がある。貴方はそう言って自らの羽をむしる。有翼者が陥りやすい自傷行為を前に、私は貴方の手首を縛る。花を散らされる乙女の如く泣きじゃくる貴方を前に、私は貴方の爪先に口付ける。有翼者には醜いと蔑まれるという、骨格のしっかりとした脚。だが、私は思うのだ。貴方の脚は地面を踏み締めるにふさわしい、とても美しい貴方の一部だと。貴方はまだ泣いている。こんなことを話す私を憎んでさえいるかと思う。それでも良い。私は貴方の、野に咲く花を慈しむ心を知っているから。いつか貴方が貴方を愛するようになった時、ともにただただ広い大地を歩こう。そうして、貴方の好きな花を見つけよう。

11/10/2023, 3:20:46 PM

幽霊の正体見たり枯れ尾花。昔から使い古された諺はけれども、逆説的に考えることも出来るのではなかろうか。枯れ尾花にこそ魂が絡まり、幽霊になるのではないかと言う私の仮説に、助手であるカガチ君が賛同をしてくれ、実験をすることとなった。
「カヤ博士、実験とは?」
「私が死んで、その魂がススキに定着するかと言う実験だよ!」
驚いた顔のカガチ君を置き去りのまま、私は実験用の劇薬を呷り地に臥した。ぬるり、自分の体から何かが這い出してきた気がした。私は気味の悪さに顔を挙げると、確かにぬるりと粘性の魂が吐き出されていた。しかし魂はススキに絡む前に固まってしまった。さて、どうしようと考えていると、カガチ君が私を腕に抱いた。
「死者を弔うのが鬼灯の仕事ですから」
枯れ尾花と鬼灯、確かに絶妙な取り合わせだ。カガチ君の腕に揺られながら、私は新たな人生を初めるのだ。

11/9/2023, 6:31:07 PM

「ねぇ、私明日、天国へ行くの」
そんな台詞を口にした翌日、君は廃屋の天辺からコンクリートタイルの染みになった。原因は学校のいじめ問題だとネットニュースが垂れ流していた。
だが、私は知っている。君が天国への片道切符を買った、本当の理由を。君はあの人と生きたかったのだ。
テレビのお偉そうな教育コメンテーターより、歳をとっているだけで子供を奴隷の如く扱う教師より、君の涙を「情けない」と嘆いた両親より。
君を救ったあの人は、灰色の紙の上に刻まれた登場人物で、あの日発売の週刊少年誌で非業の死を遂げた。
後追い自殺なんて愚かしいなんて、漫画のキャラクターにリア恋なんて馬鹿らしいなんて、私は言えない。
現実で君を救えなかった私達に比べれば、君が愛した人の方が明らかに生きるべき人間であった。
数日ののち、単行本に収録されたあの話に、読み切りの小話が描き足されていた。タイトルは「ある日の幸福」であった。