単眼冥土

Open App

「ねぇ、私明日、天国へ行くの」
そんな台詞を口にした翌日、君は廃屋の天辺からコンクリートタイルの染みになった。原因は学校のいじめ問題だとネットニュースが垂れ流していた。
だが、私は知っている。君が天国への片道切符を買った、本当の理由を。君はあの人と生きたかったのだ。
テレビのお偉そうな教育コメンテーターより、歳をとっているだけで子供を奴隷の如く扱う教師より、君の涙を「情けない」と嘆いた両親より。
君を救ったあの人は、灰色の紙の上に刻まれた登場人物で、あの日発売の週刊少年誌で非業の死を遂げた。
後追い自殺なんて愚かしいなんて、漫画のキャラクターにリア恋なんて馬鹿らしいなんて、私は言えない。
現実で君を救えなかった私達に比べれば、君が愛した人の方が明らかに生きるべき人間であった。
数日ののち、単行本に収録されたあの話に、読み切りの小話が描き足されていた。タイトルは「ある日の幸福」であった。 

11/9/2023, 6:31:07 PM