ずっとこのまま
ふと目を覚ますと横に無防備な女がいる。上半身裸のオレを横に置いておきながら、マヌケなツラで寝息を立てている。ベッドから落とすのも起こすことも簡単で、なのに、オレは息を潜めて彼女に向き直し、その吐息を数えるように顔を近づけ、起こさないように身を小さくしようとする。
ずっとこのままでいい。そう思っていると「らん、」と小さく声がして、おはよう、とお前が笑う。ずっとこのままでいいの撤回は、こんなにも早くていいだろうか。
寒さが身に染みて
朝起きて布団を捲ると寒さが身に染みて、冬の狂気を知る。凛と世界が澄むこの季節は好きだけれど、指の先をじんと痺れさせるこの感覚には、何度季節を繰り返しても慣れないのだろう。
ぱちりと目を覚ますと、壁があった。肌があたたかいぬくもりに触れていて、少し首を傾けて上を向くと、伏せられた睫毛。すう、と冬の空気は鮮明に、小さな寝息すら耳に届ける。すいと顎のラインを撫でてみる。あどけない寝顔は変わらず、瞳の奥の青色は隠されたまま。ああ、やさしさが、いとしさが、こんなにもちかくで形を成している。
20歳
「楽、20歳おめでとう」
「ありがとな」
「ひと足先に大人だね」
「そうだな」
隣り合って座ってチン、とグラスを向かい合わせて乾杯をする。翡翠はトニックウォーター、楽はビールをごくりと口に含み、「これってうめえのかな、よくわかんねえな」と眉を顰めた。「大人の味?」と笑った翡翠が問いかけると、「まあ、子供の味ではねえかな」と伝染したように顔を綻ばせた楽が翡翠に顔を寄せ頬にキスをする。これ口にしたら未成年飲酒かな。そうかもね。くすくすと笑いながら、20歳と19歳はぴたりとくちびるを合わせた。
三日月
「二階堂くんが三日月狼やるんだってね」
「ああ」
「楽しみだな」
「俺と二階堂、どっちがかっこいいと思う?」
ぱちくりとまつ毛を揺らして、「それは三日月狼として? それとも男性として?」と伺う翡翠に「どっちも」と返して、ウイスキーを煽る。三日月でない丸い氷がころりと空になったグラスの中で音を立てた。くすくすと声を転がす翡翠に、俺は眉を顰めるしかない。
「なんで笑うんだよ」
「ふふ」
楽しみだなあ、とまた、心からの言葉を灯しながら。翡翠はぶすくれる俺の唇に唇を合わせた。
色とりどり
「わあ」
植物園。赤、黄、ピンク、色とりどりの色の花々が咲き誇っている。極彩色の色彩の中、
「きれい、」
俺と手を繋ぎながら嬉しそうに目を溶かし綻ばせているきみが一番綺麗だ。