外はすごい大雪で睫毛の先にまで積もるほどだ
白く凍てつく空気に体の末端が酷く痛む
けれど私はベンチに座ったまま動けないでいた
なぜなら今日は大切な約束の日だったからだ
数日前、私はあの人に想いを告げた
そしてこの気持ちに応えてくれるなら
今日この日、この花園に来てほしいと
私はいつまででも待つつもりだった
もしかしたら来てくれるんじゃないかって
少しの期待と不安を抱いて寒さなんて感じなかった
あたりは次第に暗くなっていく
この場にいるのはひとりだけ
もうとっくにわかっていた
無駄だとわかっているのに足が動かなくて
寒さが身に染みて、心まで凍ってしまったように
大好きな貴方の視線の先には
いつも青いドレスを着たあの人がいた
美しく儚げで目を離したら消えてしまいそうで
私がどれだけ可愛らしい衣装を着て
どれだけ貴方にアピールしても
あの人に与えられた愛の一欠片さえ
私に注がれることはない
ふと顔をあげると目に入るのは凍てつく鏡
そこに映るばかみたいに着飾った自身の姿
なんて醜いんだろう
あの人に勝てるはずがない
私は瞬間的に鏡を叩き割って
バルコニーに飛び出して月を見上げた
私にとってあの人はまさに月のような存在
あんなにはっきりと光り輝いて見えるのに
手を伸ばしても、決して届くことはないの
あの人に恋をした貴方の心も
決して私のものにはできないの
闇が辺りを包む頃、空は美しい輝きに包まれる
ある人はこの地を"願いの揺り籠"と呼んだ
新月の夜、もっとも強い願いを夜空に祈れば
自らの命を代償にそれは現実になるのだと
古くから語り継がれているからだった
この言い伝えを信じる者はもういない
そんなのは非現実的だと誰もが言う
だけど私は、この言い伝えに縋っている
どうしても助けたい人がいるのだ
その人はいつだって私を肯定してくれた
私の存在は無価値なものではないと
自分には太陽のように輝かしいと言ってくれた
そんな貴方は眠りについたまま
いつしか目を覚まさなくなった
だから私は月の隠れた夜空に祈る
暗い世界に閉じ込められた貴方を
陽だまりへ呼び戻す道標、一番星になるために
私はどうやらここまでのようだ
直に炎がこの身を包み
痛みに悶え苦しみながら人生を終えるだろう
私を糾弾したのは心から愛した人だった
最後に笑顔を見たのはたった数日前
永遠の幸せを願って綺麗な花束を贈った
貴方は涙ぐんでお礼を言って私を抱きしめた
ずっと私を愛してくれると言ったのに
信じた矢先このザマか
罠にかかった私が馬鹿だったというわけだ
煙で視界が鈍る中
瞳に映るのは、悔しそうに唇を噛み
大粒の涙を溢す貴方の姿
どうしてそんな顔ができるのか
問いただすことももうできない
体温にしては熱すぎる劫火の温度を感じながら
貴方とのぬくもりの記憶を偲んで眠る
「この戦いで私は命を落とすことになるだろう」
長閑に揺れる木陰の静けさの中
貴方の言葉に、私は絶望に突き落とされた
どうして、なんて聞くまでもない
花の国である私たちの王国が
猛炎を司る火の王国に敗北することは明らかだった
「怖くないのですか」
その場を繋ぎ止めるだけの言葉が宙を舞う
貴方は優しく私を抱き寄せ穏やかに答える
「怖い。ただ貴女と会えなくなることが
どのような苦しみ、死よりも恐ろしい」
視界が滲み悲しみで心が壊れそうになる
けれどその瞳を見つめ、いつものように微笑んだ
「ずっと貴方を愛しています。次の人生でもきっと
二人で幸せな最期を迎えましょう」
貴方は静かに目を閉じて、私の言葉に頷いた
きっと悲しむことなんて何もない
木漏れ日の跡に続く光は二人の誓いを知っている