同じ大地の上にいるのに
同じ空を見ているのに
貴方の声も姿も人となりも
私は何一つとして知らない
どこかでその瞳を見かけても
それが貴方だと気づけない
どうしてこんなに切ないのかな
きっと、これから先もずっと
貴方を知ることなんてないのに
どうしてそんなことが悲しいんだろう
街の一角にある本屋で小説を探していた
今の私の心を代弁してくれる本が欲しかった
どうしようもなく悲しくて
心が壊れてしまうような後悔の物語を
店内を回っていると、ある一冊の本が目に入った
『sweet memories』と名付けられたその本は
二人の恋の成就を辿る王道の恋愛小説だった
どうせ最後はハッピーエンドなんだろう
「なんてくだらないの」
私は本を戻し、店を飛び出して当てもなく走った
酷い雨に打たれていることも気にならなかった
意味のない考え事ばかりが心を占めていて
ねぇ、行き場のないこの願いは
どうやって捨てればよかったんだろう
私だって報われたかった
好きな人に好きになってもらいたかった
こんな痛みに苦しめられるくらいなら
いっそ貴方を知らないままでいたかった
「明日は遂に歴史に刻まれる瞬間となり
そして、私の最期の日でもあるだろう」
そう言い放った貴女の瞳は
覚悟と揺るぎなき信念に満ちていた
でも、その覚悟の裏にある恐れと憂いを
私はずっと知っている
「怖いのか、貴女が向かわんとする死の先が」
私が問うと、貴女は微笑んで頷いた
「怖いさ。私のように反乱を率いたものは
きっと天に迎え入れられることもない」
こんなに泣きたくなったのはいつぶりか
人々を救おうとした貴女の想像する未来が
あまりに報われないものであるように感じて
「天国は遠く在るものだ
近くに在っては皆すぐに行きたがってしまうだろう」
口をついて出た夢物語に己が呆れたが
「その通りだ」と笑う貴女に、私は心から祈った
願わくば、遥か先の平和な未来で
貴女が全てを忘れて幸せに生きられるように
それが、風とともに自由を謳う貴女への
唯一の手向けだっただろう
貴方は私の憧れだった
だから貴方がいなくなった後
ずっと貴方の軌跡を追った
最後まで貴方に届くことはなかったけれど
私はそれで幸せだった
憧れは憧れのまま
二度と貴方に追いつかないままで
ずっと理想を探していた方が幸せだから
太陽みたいに暖かくて
いつも私を助けてくれる貴方のことが
私は好きになれなかった
貴方はきっと皆に愛されていて
皆に必要とされていて
それを思い出すたびに
私は特別になれないことがわかっていたから
貴方はいつも私を惨めにさせた
私はずっと貴方を追いかけ続けて
だけど貴方はそのことに気づきもしない
それでも貴方を嫌いになれなかった
だって貴方は私がどんなに過ちをおかしても
いつだって月のように優しくて
慈愛をもって、私を許してくれたから