天を仰ぎ手を伸ばす
美しい黄昏に乞うように
あの空に吸い込まれてしまえたら
どんなによかっただろう
壊れ、色を失っていくこの世界で
もう一度、息をすることができたら
私は地に膝をつき懸命に祈った
こんなこと、意味がないことだと知りながら
わかっているの
ここに貴方は来ない
私がどれだけ願っても
貴方はあの子を追いかけるって
苦しさは覚悟していたつもりだったけど
それでも、耐えられないものなのね
月が照らす教会で、私は神に祈った
ずっと、貴方を想っていた
私を選んでほしかった
この想いは届かないけれど
せめて、この涙が乾くまで
どうか、私の消えゆく願いを聞いてください
窓から射し込む一筋の光が
優しく微笑む女神の彫像を照らしていた
友よ、どうして
一体どうして、こんなことをしたんだ
彼に問いかけるが返事はない
酷いやけどを負っている彼を抱き起こす
私の心はただ焦るばかりで
疑問を投げかけることしかできなかった
辺り一面は火の海だ
自らが燃えようと意に介さず
彼が火を放ち続けた理由は明白だ
捕らわれた私を助けに来てくれたのだろう
だが、私が助かったとて
どうして君を失って、無事であったと言えようか
彼は体温を失っていく
待ってくれ、まだ眠るには早い
でも、あぁ、それでも逝ってしまうのなら
永遠の眠りにつく前に、どうか最期に聞いてくれ
君の友人であれたことは私の誇りだ
ずっと感謝しているよ
昔、この王国にはとある物語があった
悪しきを欺き、そして滅ぼした慈愛の女神の伽話だ
その身を堕とし、英雄に自らを貫かせ
人々に誤解を受け、憎まれてなお
光が尽きるその時まで、世界の安寧を祈ったという
随分と杜撰な物語だ
その命を犠牲にこの地を護った女神も
想いとともに彼女を貫いた英雄も
彼らに非情な仕打ちを、虚空の賞賛を送った民衆も
愚かで哀れで虚しくて
誰も救われない物語でしかないのだ
だから、私は真実を語る
彼らの本当の物語が、永遠に語り継がれるように
敬愛なる光の女神の微笑みと
かつて英雄と呼ばれた先祖の涙に誓って
女神は狂い世界に絶望をもたらし
悪魔を率いて光さえも奪おうとした
我らが勇者は堕ちた女神の身を貫き
世界は再び安寧を取り戻したという
これは王国に伝わる伝承だ
裏切り者を討ち滅ぼし正義を讃える
実に素晴らしいことだ
未来を護った勇敢な英雄も
さぞかし喜んでいることだろう
だが、私は知っている
誰も知らない、もう一つの物語を
今ここで貴方に話そう
英雄譚の裏に隠された、悲しい伽話を
女神像は泣いている
粉々に砕かれた、悪の女神像は
最期までその手に花を守り
愛と無念を抱き、ただ静かに泣いている