貴方が吹かしている煙の匂いを感じる
こんなにも近くにいるのに
私の心は不安に支配されているの
あのカーテンが掛かったとき
貴方が消えてしまう気がして
「本当に愛していたの。心から」
貴女はそう言って目を伏せた
私は言葉を探していた
きっと慰めの言葉など求めていないだろう
そうして何も言えないでいるうちに
貴女は意を決したように立ち上がった
「そして今も、彼を心から愛しているわ」
その目は覚悟と慈愛を帯びていた
あぁ、貴女はまた行ってしまうのか
彼を追いかけて、私を置いて
「そうか。彼を探しに行くんだね」
その次の言葉を言えなかった
貴女は私に感謝を告げて
また私から去ってしまった
私が迷っているうちに
貴女たちは私の手の届かない場所へ行ってしまう
意気地なしの私は追いかけることもしないで
それだから私は
きっとこの命を終えるまで
あなたの涙の理由にはなれないだろう
ここまで休まず歩みを進めてきた
その反動か、視界が不安定になり体も重い
私は馬から荷を下ろし
束の間の休息を取ることにした
こんなことをしている暇はないのに
早く貴方を迎えに行かなければならないのに
考えれば考えるほど意識が朦朧として
気づけば東の空から光が射し込んでいた
眠ってしまっていたのか
休んでいる暇ない
闇に攫われた貴方を
救いに行かなければならないのだから
貴方がいつも私を守ってくれたように
今度は私も貴方を助けたい
私は薄れゆく記憶を手繰り寄せ
彼方に向かって再び歩き始めた
貧困に耐えかねた国民は革命軍を形成し
己の仇とばかりに城に攻め入った
私もその一派として参加した
王族を吊し上げるためではない
私は許されざる恋をした
その相手を助けるためにここにいる
しかし、この体はもう使いものにならないだろう
せめて最期に
たった数秒間の悪あがきをしよう
私は喉に力を込めて叫んだ
「ここだ、王女はここにいる!」
大勢の足音が近づいてくる
この嘘はすぐに気づかれ
私の身は正義の刃に貫かれるだろう
それで構わない
彼女は私に生きる理由をくれた
たとえ業火に焼かれようと
私は最期まで幸せだった
ふとした瞬間に貴女との記憶を反芻している
あの時、どうして貴女は綺麗だと
貴女を想っていると言えなかったのだろう
もし何か、たった一言でも何か言えていたら
貴女は今も私の隣にいてくれたのだろうか
もうどうすることもできないのに
貴女は遠くへいってしまったのに
こんなふうに過ぎた日を想っていると知ったら
貴女はいつもみたいに笑ってくれたのだろうか