君が見た夢を共有できれば。
君の夢を共有できれば、
奥に眠る思いに気付けるのに。
お互いに何一つ卑しい隠し事もなく、
平和に暮らせるのに。
君が見た夢を共有できれば。
君の夢を共有できれば、
僕が叶えることだってできるのに。
何不自由なく頭の中でも、
手を繋いでいられるのに。
君が見た夢を共有できれば。
そう夢見てるよ。毎日。
23[君が見た夢]
「ねぇねぇ、おかあさん。あたし大人になったらお星さまになるの。」
「あら素敵ねぇ。いい、ちほちゃん。子どもはね、皆、大人を見るのよ。なぜだか分かる?」
「うーん。」
「大人はね、それだけで子ども達にとっては輝いてみえるの。まだ手に届かないお星さま。」
「うん。」
「だからね、ちほちゃんは将来、その子ども達の手を大切に握手できるような大人にならなきゃ。良いお星さまになれば、きっとたくさんの子ども達の『道しるべ』になれる。迷子の子もそれを見てお家に帰れるのよ。」
「おかあさんはオリヒメっ!」
「何でかな?」
「ヒコボシのおとうさんと出会ったからー!」
「ははは。ちほ。ヒコボシとオリヒメは星じゃないよ。」
「そうよ。ちほちゃん。お星さまになれば天の川の中に入って、オリヒメとヒコボシに会えるかもね。」
22[星になる]
きらめく街並み。
最初見た時はそうだった。
かがやく人達。
あそこで見た時はそうだった。
晴れやかな景色。
あの日見た空はそうだった。
ワクワクして待ちきれない気持ち。
何も待ってはいなかった。
煌めきも輝きも
消えれば、
あとは何もなかった。
21[きらめく街並み]
どこにあるの?
貸してよ。鍵。
ちょっと開けるだけ。いいでしょ?
ちょっと触るだけ。手袋するよ。
一回、一回だけだから。
貸してよ。鍵。
こういうお付き合いはね、
鍵から始まるんだよ?
あなたの鍵、
見してよ。
そしたらすぐ済むんだよ。
こうやって苦しまずに済むんだよ?
私が労力をかけずに済むんだよ。
だから貸してよ。
貸さないなら開けて。
あなたが開けてみせて。
あなたの鍵がないと始まらないんだよ。
二人の愛の扉を開ける鍵。
開けてくれるよね?
同棲、してくれるよね?
どうしてはぐらかすの。
20[君が隠した鍵]
長い洞窟を駆ける。
記憶のランタンを頼りに真っ暗な「空虚」の、
奥の奥へ進む。
ランタンは無造作で本当にかつて僕が灯したものなのか不安になる時がある。
この道で合っているのか、
自分が一度訪れたところで迷子になるというのは、
新鮮なことだ。
いずれ忘れてしまう。
今思い出そうとしているのも何かの縁。
もう一度来たときは迷わないように、
今しっかり頭に焼き付けなければ。
長い洞窟を駆ける。
だんだんと確かになっていく、
自分の記憶。
メモリーカードはまだ生きていた。
間に合ったんだ。
ランタンのこの灯火を1個でも絶やして入れば、
このまま迷い続けて忘れていくところだった。
あの時は無駄かもしれないと思っていたことが、
今では助けにすらなっている。
いずれ認められる愚行のように。
思い出というガラクタは埃が溜まれば宝物になる。
そろそろ出口が見えてきた。
空虚の出口が見えてきた。
長い洞窟だった。
そうだ。この景色だ。
懐かしい、面影がある。
記憶のランタンは弱々しい光から、
より一層強いイルミネーションになって、
あの思い出をより鮮明に照らす。
こうやって時々見に行きたくなる。
過去に浸りたいワガママもあるけれど。
今見てる景色という思い出を、
色褪せたランタンをもう一度焚き付けに行くんだ。
出口はいずれ閉まるけど、
そこまでの道のりを記憶のランタンがずっと示してくれる。
19[記憶のランタン]