#18『行かないで』
ライブも盛り上がり、彼と一緒に帰路につく。毎日のようにアタックされて付き合うことになったが早3ヶ月。こうやって送ってくれるし中々イイ奴なんだろう。どう、カッコ良かった?ボクのウインクわかった?とか、なんだかワンちゃんみたい。
「あのベースの子、何君っていうの?」
「ダメだよ、紹介しないからね⁉」
「えー」
素直に言えたら可愛い女の子でいられるのにな。あっという間にお別れの場所で、今日も1人反省。
でも。じゃ、また明日ねー、とヒラヒラ手を振る彼を見て、愛想尽かされたら嫌だな、と思うほどには好きみたいだから。
待って、と背中の服を掴んで止めて、顔をうずめる。ピシリと彼が固まるのがわかる。
「かっこ…よかっ、た。ウインクされてキュンてしちゃったし、目ぇ離せないし、どんどん…好きになっちゃうし、もうどうしてくれんの、バカ」
「……あーーツンデレかぁわいい」
ガバッと抱きしめられて、今度は私が固まってしまう。急にどうしたの。いつもは言えないから。そっかそっかー。ちょと、髪型崩れる。はいはい。
「俺のこと大好きなワケね?」
普段ヘラヘラしてる分、ステージでギターを弾くフロントマンはギャップがヤバ過ぎる。ほら、今だって。ボクが俺になるときは要注意なんだ。
#17『どこまでも続く青い空』
沖合いの島に太陽が沈む
この時期にだけ参道に夕日が差す
光の道のその先には
ただただ海が広がっていて
大潮、干潮、無風
これが揃えば間違いない
かがみの海にポツリと立てば
青だけが私を包むから
一緒に来たの、覚えてる?
こうすれば空に、貴方に近くなるでしょ?
ブルーな気持ちを景色に残して
枯れた自分を脱ぎ去った
#16『衣替え』
ポカポカしてていいお天気だから、今日はサイクリングに出かけよう。この前衣替えしたから久しぶりに見る服ばかりで、どこに何を着ていこうかワクワクする。
とりあえずゆるっとした白いトレーナーに、ジーパンを履いて、花柄のベストを羽織って赤いブーツを合わせた。
目的地は特に無い。ローカル線の隣をなぞって漕いでいき、神社とかに寄り道する。線路は秋の植物がたくさん生えてて見てて飽きない。
風が気持ち良くて、家にいるばっかじゃなくて偶にはこういうお休みもいいかなって。
まあ、帰ったら新聞部の記事を書き進めなきゃなんだけどね。
#15『声が枯れるまで』
席についたまま貴方の体がユラリ傾いた時、
嫌な予感がして冷や汗が流れた。
大きな目にはクマがひどくて
軽く指を咥え、頭はフル回転
安楽椅子ではしゃがむような変わった座り方。
その曲がりに曲がった猫背は
貴方の背負うものの大きさを
そのまま表現しているようで。
彼こそが世界の切り札、私の尊敬する名探偵。
資料を摘んで見せて
これどう思いますか、
と聞く彼と一緒に考えたり
休憩には世界各地のお菓子を食べたり
スリリングだけど楽しい日々。
誰よりも賢くて正義感の強い貴方の人柄や
新たな一面を知れば知るほど
側にいたい、支えたいと思った。
慌てて駆けつけ何度も名前を呼ぶ。
嫌だ嫌だ、私を置いて逝かないで__
咽び泣いて落ちた涙が、彼の頬に伝う
だんだん閉じていく黒い瞳には
私の顔が写っていて
もう聞くことのできないその声で
優しく名前を呼ばれれば
泣かないで、と言われたようだから
無理やり笑顔を作って見せる
お慕い申し上げます
貴方に近づけるよう頑張りますから
また、会いましょうね
#14『始まりはいつも』
オータムナルのダージリンが飲みたくなる時期。早朝はストレートで淹れて問題集を解いていく。朝ご飯の時はミルクティーにしてトーストと一緒に。優雅な朝だ。さて、どんな休日にしようか。
午前をゆっくり過ごせば、約束していなかったけれど彼に会いたくなった。連絡を入れてみればすぐに返信が来る。今さっき起きたらしい。隣に住んでいるし、適当なタイミングで遊びに来るだろう。それまでに私はクリームティーの準備を進める。
ガーデンにある机に手作りスコーンとジャム、クロテッドクリームを並べて、彼のお気に入りのアッサムを用意。しばらくして犬が気づいて走り出す。チェックシャツを爽やかに着こなしている彼が今日もカッコイイこと。学校のこととか、新しくハマった音楽とかを話して、この時間と芳醇な香りに心が満たされる。
夜にはアールグレイを注いで勉強再開。来年からは受験生だからね。
自分の時間を大事にするために、私はいつも、まずは紅茶を淹れる。