#16『衣替え』
ポカポカしてていいお天気だから、今日はサイクリングに出かけよう。この前衣替えしたから久しぶりに見る服ばかりで、どこに何を着ていこうかワクワクする。
とりあえずゆるっとした白いトレーナーに、ジーパンを履いて、花柄のベストを羽織って赤いブーツを合わせた。
目的地は特に無い。ローカル線の隣をなぞって漕いでいき、神社とかに寄り道する。線路は秋の植物がたくさん生えてて見てて飽きない。
風が気持ち良くて、家にいるばっかじゃなくて偶にはこういうお休みもいいかなって。
まあ、帰ったら新聞部の記事を書き進めなきゃなんだけどね。
#15『声が枯れるまで』
席についたまま貴方の体がユラリ傾いた時、
嫌な予感がして冷や汗が流れた。
大きな目にはクマがひどくて
軽く指を咥え、頭はフル回転
安楽椅子ではしゃがむような変わった座り方。
その曲がりに曲がった猫背は
貴方の背負うものの大きさを
そのまま表現しているようで。
彼こそが世界の切り札、私の尊敬する名探偵。
資料を摘んで見せて
これどう思いますか、
と聞く彼と一緒に考えたり
休憩には世界各地のお菓子を食べたり
スリリングだけど楽しい日々。
誰よりも賢くて正義感の強い貴方の人柄や
新たな一面を知れば知るほど
側にいたい、支えたいと思った。
慌てて駆けつけ何度も名前を呼ぶ。
嫌だ嫌だ、私を置いて逝かないで__
咽び泣いて落ちた涙が、彼の頬に伝う
だんだん閉じていく黒い瞳には
私の顔が写っていて
もう聞くことのできないその声で
優しく名前を呼ばれれば
泣かないで、と言われたようだから
無理やり笑顔を作って見せる
お慕い申し上げます
貴方に近づけるよう頑張りますから
また、会いましょうね
#14『始まりはいつも』
オータムナルのダージリンが飲みたくなる時期。早朝はストレートで淹れて問題集を解いていく。朝ご飯の時はミルクティーにしてトーストと一緒に。優雅な朝だ。さて、どんな休日にしようか。
午前をゆっくり過ごせば、約束していなかったけれど彼に会いたくなった。連絡を入れてみればすぐに返信が来る。今さっき起きたらしい。隣に住んでいるし、適当なタイミングで遊びに来るだろう。それまでに私はクリームティーの準備を進める。
ガーデンにある机に手作りスコーンとジャム、クロテッドクリームを並べて、彼のお気に入りのアッサムを用意。しばらくして犬が気づいて走り出す。チェックシャツを爽やかに着こなしている彼が今日もカッコイイこと。学校のこととか、新しくハマった音楽とかを話して、この時間と芳醇な香りに心が満たされる。
夜にはアールグレイを注いで勉強再開。来年からは受験生だからね。
自分の時間を大事にするために、私はいつも、まずは紅茶を淹れる。
#13『すれ違い』
貴方と別れてしまったのは
この世が不条理だから
としか言いようがないけれど、
立ち直るのに案外時間はかからなくって
新しい気持ちで生きようとすれば、
忘れさせないかのように
思い出される記憶に
胸が締め付けられるばかり。
ああ、向こう側から来る貴方に
すれ違いざま、
どんな対応をすればいいんだろう
久しぶりに姿を見てこんなんじゃ
やっぱり私、変わってないのかも
それでも前よりもっと
強くなっているはずだから
魅力的になってるはずだから
自信を持って進んでいく
#12『秋晴れ』
今日みたいな空を見上げると
一見どこまでも高く続くようだけれど
自分を中心とした
プラネタリウムの中にいるみたい。
その半球に閉じ込められて
上から誰かに見られているみたいで
なんだかちょっと窮屈。
でも2人で自転車を押して歩く帰り道
「ちょっと寄り道して帰ろうか」
と提案されてワクワクしてしまう
そんな単純な私。
君といると退屈しないから
今年の秋も楽しめそうだな。