茜さす書棚より本引き出し、長年積もりし埃吹きき。紫煙の残香と共に舞う厚き埃は、やがて散り散りとなって、窓から差し込む紅き夕陽と伸びゆく黒き影のあわいの中で白く細かく点滅する。人の息吹から生まれた星の子たちは、自由に天へ昇ったり地に降りたりしている。
白き星屑が舞い踊る中で、手にした書物の表紙を眺めた。表紙に彫られた題名を指でなぞりながら、久しきかなと挨拶をして頁を開いた。頁をめくって、文字を辿って、言葉をなぞっていく。紙と肌の触れる音が静かに響く。
本を読む者は、ただ黙った。本が書き残した言葉の前で、静寂に耳を傾ける。真っ直ぐな視線は、本の裏側にいる著者の姿と向き合っていた。どこかで見聞きした歴史が、その書物の中に記録されている。
また忘れ去られた歴史が、ここにもあったのかと本を読む者は密かに笑った。そして、またいつか、時代の荒波に飲まれて忘れ去られるだろうと先の未来にも笑いかけた。
夕映えのもと、白い埃は長く伸び切った影の中に消えていった。輝きを失っても、本を読む者の微笑みは自信に満ちている。
(250722 またいつか)
星屑となりて
うつろふ覚悟を持てとその人は
くろがねの如く 硬く脆く
輝きて錆びにけり
(250721 星を追いかけて)
例え一年分の作り置きのおかずやデザートが冷蔵庫にあっても、一年後の自分が満足して生活できるようにしたいと欲求や不安が消化不良を起こして、まさに今追加の食材を買ってしまった。
(250720 今を生きる)
夕方の赤みがかった青空に浮かぶ雲を眺めた。羽先のような白い雲が空を覆っている。雲の端を子どもの柔らかな手で悪戯に引っ張られたような形をしていた。
良い雲だと眺めていると、その白い筋から段々と青い血管が浮かんできた。空も生きている、どくりと私はときめいた。雲の隙間から空の静脈の鼓動が震える。
空の血管の中に入っていきたいと、私の中の鳥籠にいる小鳥が羽ばたく。なら飛んでいけと群青の血潮が溢れる空に放った。
(250719 飛べ)
「誕生日以外何でもない日って祝うなら、自分の死んだ日も『なんでもなーい!』って祝っちゃって良いの?」
「生まれた日は特別に何でもあるのに、死んだ日が特に何でもないって、ホント皮肉だね」
(250718 special day)