はた織

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 茜さす書棚より本引き出し、長年積もりし埃吹きき。紫煙の残香と共に舞う厚き埃は、やがて散り散りとなって、窓から差し込む紅き夕陽と伸びゆく黒き影のあわいの中で白く細かく点滅する。人の息吹から生まれた星の子たちは、自由に天へ昇ったり地に降りたりしている。
 白き星屑が舞い踊る中で、手にした書物の表紙を眺めた。表紙に彫られた題名を指でなぞりながら、久しきかなと挨拶をして頁を開いた。頁をめくって、文字を辿って、言葉をなぞっていく。紙と肌の触れる音が静かに響く。
 本を読む者は、ただ黙った。本が書き残した言葉の前で、静寂に耳を傾ける。真っ直ぐな視線は、本の裏側にいる著者の姿と向き合っていた。どこかで見聞きした歴史が、その書物の中に記録されている。
 また忘れ去られた歴史が、ここにもあったのかと本を読む者は密かに笑った。そして、またいつか、時代の荒波に飲まれて忘れ去られるだろうと先の未来にも笑いかけた。
 夕映えのもと、白い埃は長く伸び切った影の中に消えていった。輝きを失っても、本を読む者の微笑みは自信に満ちている。
                (250722 またいつか)

7/22/2025, 1:13:17 PM