『少年Bのハンコウ』
少年Bは、人を殺した。
それはそれは激しい雨が降る夜に。
少年Bに滴るのは、ただただ興奮して火照った体を強制的に冷却するようにつんざく雨だけである。
涙など流れてこない。あったとしてもそれは涙ではなく、人を殺したことによる焦燥感ゆえの汗であろう。
少年Bは、前々からこの人物を殺すつもりであった。
一時の昂った感情などのものでなく。
計画的な犯行、反抗、反攻であった。
だがこの少年Bは人を殺したことを悪い事だとは思っていない。いや、正確に言うとするならば「この人物を殺したことについて悪い事だとは思っていない」だろうか。
多分、他の人であれば大罪を犯してしまったとさぞ恐怖で震えるだろう。
しかし、少年Bが殺したのは他でもない少年Aである。
いつも、いつも、いつも先にいる、少年Aである。
さぞ妬ましいだろう。
さぞおぞましいだろう。
さぞ愛らしいだろう。
どう自分をアピールしたところで結局皆少年Aの方へと流れてゆくのだ。
そこで少年Bは考えた。
「自分が少年Aを殺せば、皆自分を注目してくれるのではないか」
あぁ、なんと賢い。賢く醜く愚かな考えだ。
しかし、僕は止めはしない。
少年Bの傘になることなど到底僕にはできぬのだ。
いいや、先の言葉は撤回しよう。
僕は少年Bの傘になどなりたくないのだ。
きっと少年Bの傘になると、激しい雨で破れてしまう。
他人のために犠牲になるなんざ僕はまっぴらごめんである。
…気づけば雨は軽く柔らかくなっている。
少年Bの手元にある包丁は大雨ですっかりぴかぴかになっている。
少年Bは、ただただ空をぼんやりとした眼で見つめている
魂でも抜けたような表情である。
顔に降り注ぐ柔らかな雨は、きっと少年Bを赦してくれる唯一の友なのであろう。
あぁ、可哀想だ。少年Cの僕よりも哀れだ。
上ばかり見すぎたせいで下が見えなくなってしまったのだ。
人殺しよりも人を見下す方が軽い罪であるというのに。
見下せばよいのに。
貶してしまえばよいのに。
愚か、疎か、おろかである。
さて、そろそろ僕はこの話を閉めるとしよう。
少年Cとしての役目を果たしたからな。
あぁ、そうそう最後にこの話の本当の題名を教えてあげるよ。
『少年Cの愚かな人形劇』
お題『柔らかい雨』
少々お題から大それましたね…すみません…
『ヒペリカム』
先日、幼ななじみが亡くなったんです。
たった、15歳で亡くなったんです。
私、泣いたんです。
一日だけ。
他の友達も泣いたんです。
1週間も。
少し、疑問を抱いたんです。
私は幼なじみで深い仲なのに何故他の友達よりも私の方が泣いていないんだろうって。
私、薄情者なのでしょうか。
いやでもきっと、これは薄情ではないはずです。
それにあの子も望んでいないはずです。あの子に執着して引きずり続ける私を見たくはないと思うんです。
行かないでなんて言えません。
行かないでなんて自己中です。
だから、笑ってありがとうって言うんです。
ただただ、大粒の涙がこぼれないように、あの子のいる空を向きながら。
悲しみは、続きませんから。
一度悲しみは断ち切らないと。
だから、薄情者と言われても。
私はあなたを想って泣くことはもうしません。
幼なじみ、ですから。
ともだち、ですから。
貴方の知り合いでありますから。
来世ではまた顔見知りとして0.1から始めましょう。
※このお話は現在の人物とは関係ありません。
だって、もうあの子は他の子ですもの。
本音言えたのであればせめてまたねと言いたかった。
せめて話をしたかった。
せめて愛してると伝えたかった。
助けてあげたかった。
行かないでなんて言えるわけがない。
苦しそうなあの子の眼差しを見て、行かないでなんて。
そんな、残忍なこと。
あの子の幸福をただただ願いたい。
あの子の幸福をただ、ただ。
諸事情でお花も供えられないのでせめてこの話の題名としてあの子を追悼します。
ヒペリカム
悲しみは続かない。
続かせませんよ。私が生きているかぎり。
『春夏秋冬、行、帰、僕』
※長いですが是非読んで頂きたいです…!
9月下旬、夏の残り香が廊下を歩く度にふわりと漂う。
猛暑と見られた今年の夏はもう終わりを迎えているようだ。
放課後のこの時間、図書委員の僕はいつも図書室へと向かう。僕の学校の図書室は少し特殊で、本校舎の外に設置されている。なので外へ行く時、毎回外に出ている廊下を歩く。この廊下を歩いている時、最初は特に何も思いはしなかった。
だけれど、毎日その廊下の窓から見える景色を眺めていると季節の移ろい、青春の部活、そして窓に映る自分が見えるのだ。
廊下は短く、足の長い人が渡ればものの5秒で図書室に着くであろう距離。しかし、どうしても僕は1分掛けて渡りたい。春には桜が芽吹くところから、散るところまで。夏では夏休みの部活動に勤しむ生徒たちから、文化祭の後夜祭まで。しっかりと必ずこの廊下から見届けたいのだ。
植物であれば、自分がまるで親になったような気分で眺めることができる。一つの花が芽吹き、花開くまでの様は見ていて何か誇らしい気持ちになれる。だがその分、枯れてしまうといっそう悲しい。
感情の忙しい人だと思われるだろう。でも、人気のない廊下、あまりにもエモーショナルな風景、それにかさなる季節の風情となれば小さな生命ですら見逃せずにはいられない。植物の葉につたう虫にさえも情けをかけてしまうほどなのだ。
また、この学生時代でしか味わえない学校の校舎、放課後というのが更にエモい雰囲気を醸し出している。
上の階から聞こえる吹奏楽部の音色、グラウンドから聞こえる野球部のバットにボールが当たる音。廊下を談笑し渡る女子生徒…全て、学生時代にしか聞こえぬ声。
しかも時刻は夕時であるから、晴れの日には夕日がいい感じに当たって、もっともっと心躍らせる雰囲気になる。
今年は少々足早に来た秋には近くの木の紅葉が見れるだろうし、落ち葉で焼き芋を焼く生徒たちも見えるだろう。自分も混ざりたいな〜と思うことはないでも無いが、この図書委員。自分が混ざるよりも眺める方が実は好きだったりする。自ら本を読まずとも自動でページを捲ってくれるなんとも優しいこの世界は、少し視野を広げるだけで全てが物語になる。もちろんこの僕の思想も、文章にしたらきっと物語になるのだろう。
窓から見える景色はいつも色褪せることがない。見れば鮮やか、聞けば爽やか。触れればふと夢から覚める。
そう、パッと。
自分が干渉しない程度に真近で感じることのできる最大限の空気を肺に吸い込み、やっとのことで図書室に入る。自分がいつも座る椅子からは外の景色は見えない。しかし、先程の景色を脳内で咀嚼することはできる。
あぁ、本を読みたいのにと思いながら、また今日も景色に刺激され物語を綴ってしまう。
そして、気づいたら外も暗くなっている。
行きですらこんなに多くの感情を抱えてしまうのに、帰りまで渡ってしまったらもう僕はどうなるのだろう…などと他人にとってはつまらないことを思いながら、また今日も一歩踏み出す。
物語の、光の中へ。
お題『窓から見える景色』
『聲、こえ、声』
放課後
「明日、世界が滅亡したら君はどうする?」
隣の席の池田くんが話しかけてきた。
「別にどうもしないよ。逆に池田くんはどうするの?」
伏し目がちに頬を染めながら池田くんはこう答えた。
「僕は…君に告白するかな」
そう言うと思った。
「じゃあ、ありがたく僕は告白を拒否するね」
少し驚いた顔をして微笑んで
「うん。じゃあまた明日」
と池田くんは帰って行った。
「ねぇ、池田くん。僕の選択は間違ってなかったよね」
池田くんのお墓の前でまたこの会話をスマホから流す。
あの事を話した次の日、池田くんは飛び降り自殺をした。
帰っていったと思った1時間後、屋上からばびゅーんと。
屋上に残っていたのはロックのかかっていないクリアケースを付けたスマホ。
スマホの中身は設定、LINE、写真、ボイスメモだけ。
勝手に見るのも悪いかなーと思ったけど、まぁ何も起こらないだろうし、と思ってなんとなくボイスメモを開いた。
3秒の悲鳴と、放課後の会話。
悲鳴は、女子生徒のだろうか。なぜ悲鳴が入っているのかは分からない。放課後の会話は、思い出としてでも残しておいたのだろうか。
あの後まだ地面に崩れている池田くんに向かって僕はあの会話を流した。池田くんの耳からは血が出ていたから聞こえていないかったかもしれないけれど。
池田くんが死んだ翌日、教室では特に代わり映えのない会話が流れていた。
昨日のテレビだとか、好きな俳優だとか、推しのイベントだとか。
池田くんが死んだとか。
やっぱり人間って薄情なんだね。君が死んでもこの世は何も変わってないよ。
でも、池田くんの事が好きだった僕にとっては世界は滅んだと同然だ。
「告白を受けなかったのは何故?」
好きだからって告白を受ける理由にはならないよ。
付き合うのってめんどうじゃん。
僕、好きな物には手を出したくないタイプなんだ。
月は手が届かないから美しいんでしょ?
届いたらどうせ「こんなもんか」とか言うんでしょ?
8割がたの人間はそういう文句ばっか言う。
貴方が望んだことなのに。
「ねぇ、池田くん。告白を受けなかったのは謝るけど、死んだ池田くんのことを忘れてるやつらより、毎年お墓に来てる僕の方が薄情じゃないよね」
蛙化現象とか言って自分に酔ってる人間より
明日には昨日の食べたご飯を忘れてる人間より
池田くんを殺した犯人の池田くんという人間より
「やっぱり僕は薄情者だ」
現代、変わる世界。
過去、忘れる世界。
未来、望んだ世界。
そろそろ貴方も自分の声を持ったらどうですか。
現代に揺り動かされて、他の人の声ばっかりに耳向けて。
池田くんみたいにならないで下さい。
自分の声をもったら現代に批判された若人Yより。
薄情者らしいYより。
お題『声が聞こえる』
※実際の人物とは何の関係もありません。
少しだけ解説。
この作品は意志を持たないと"言われている"若者に焦点を当てた作品です。
他の人の声ばかり聞き、肝心な自分の声は聞こうとしない。便乗しかしない。そんな人に向けた。
しかし、主人公もその若者のうちの1人です。
自分は周りとは違うから。そうやって自分しか見ない。自己中心的な人物。そして、手が届くものに対して、手を伸ばそうとしない消極的な人物。
これもまた、現代社会の若者の特徴と"言われている"ものです。
意志を持たず、消極的で、批判的で。
でも、そうさせたのは現代社会で。
貴方の声が、潰れないよう、どうか池田くんみたいにならないよう。
私はこの作品を残します。
『らいふいずふりーだむすかい』
明日、もし晴れたなら。
僕は、きっと空を飛ぶだろう。
あのタカみたいに。風になびく木の葉のように。
ふわりふわりとぽわぽわと。
ゆるりゆるりと絆される紐のように、
ゆっとり、しっとりと時間の粒と共に舞うのだろう。
今日、もし雨だったのなら。
僕は、きっと植物と会話するだろう。
燦燦と降る雨の中、
空には無いものを沢山探しにゆくのだ
かえるぴょこぴょこ、みずたまりぴちゃぴちゃ。
にじにじみえたら、いつかはハレハレ。
空も地も繋がっている。
君の空にはどんな風が流れているかな。
君の地にはどんな生命が咲いているのかな。
晴れなら快活に笑って、雨ならほわっと微笑んで。
どんな天気が君の心を芽吹かせるかな。
忘れないでね、人生は自由な空だってこと。
さあ、あなた色に染めちゃおっか。
お題『明日、もし晴れたら』
織川より。
お久しぶりです…!すみません更新頻度上がるとか言っといて全く上がってなくて…中々夏休み休みがなくて…書こうと思っても最近スランプで書けなくて…。
今月は後1個書けたらいい方ですかね…その日までまたねです。最近は暑いので熱中症対策なされて下さいね。