はじめての体験に、僕は気が付いた。
日常とは、活動写真のようなものだったのだ。
僕を中心に廻る世界と見せかけ、別に僕を中心としている訳では無かったが、たしかに生涯主人公は僕である。
人々が地動説を信じ、反する思想の者を殺すように、人はときに正しさを歪める。
いつでも自分や、多数派だけが正しいことのだと思い上がっている。
それを見下しもしたし、なんて醜悪たる争いだろうとも感じた。
それを打ち明けたらあなたは笑うかもしれないけど、本当だった。
自然の風景はいつだって本物で、誇張も無ければ謙遜もしない。
その優雅さに見惚れる心があるのなら、人間の体も捨てたものではないのだろう。
いや、寧ろ僕は妙な居心地の良さに溺れている気がする。
鏡を覗く度うつる己の姿を、なぜか気に入った。
重瞳と不揃いな臓器ごとあなたが愛してくれるなら悪くないのかもしれない。
はじめ、僕は何処にも存在しなかった。
自分自身に生きている感覚があり、人々も僕が居ると思っていたけれど、僕自身は何処にも居なかった。
僕は祀られていた。それが崇拝か畏怖かはさておいて、僕は所謂“かみさま”という扱いをされていた。
実際人間ではなく、今だってヒトの形を象った化け物であることに変わりはない。
だが、この白く脆い皮膚の中に自分を閉じ込めてからというもの、当たり前に佇む自然の営みが無性に愛おしくなる。
あなたはそれを感情の芽生えと宣った。
あの瞬間、僕はあなたと出逢い、あなたと話し、あなたと咲った。
うまれて初めて、僕は望みを持って、明確に生への渇望を感じた。
だからこの活動写真も、喉の奥の変な乾湿も、きっと忘れない。
もし僕が忘れてしまったら、あなたが思い出させてくださいね。
三十一作目「きっと忘れない」
人間と人外のブロマンスに囚われて幾星霜
そう聞いてるうちは、到底無理
水底に潜って泡を掴むような感覚に襲われる
三十作目「なぜ泣くの?と聞かれたから」
それは悲哀を模るグランギニョルだったかもしれない。
星の見えない真夜中の、御伽噺とは言い難い滑稽な物語。
つくづく言葉選びを間違え続けた己への戒め、或いは他人へのこの上ない執着と束縛が今、消え失せた気がした。
勿論そんなことは無いのだけれど、自分の中で確かに何か変わった気がした。
飽くまでも自分は天使になれず神に見初められず薬を酒で呑み込んでは吐き出す堕落的な人間であるし、元より人間性や倫理という詞とは対極であるが。
故に、言葉にならずに蒸発してった嫉妬の数々が、どす黒く澱となって蓄積されている訳なんだろう。
後悔とか焦燥とかもう聞き飽きた。
圧倒的多数が、これは悲劇と宣うであろう。
だが、もし、一人でも、これを自業自得だと叱責するなら、或いは喜劇と云うなら、その時点で終演だ。
それでも今、いちばんしたいことは、ただ、安らかに、沈んで、
そして光に導かれ、在るべき場所に還ることだと思うんだ。
今、私の左手に貴方の右手が重なった、そんな幻覚を見た気がした。
また薬を飲まなきゃ。汚い物を洗い流そう。
【Repeat】
二十九作目「言葉にならないもの」
言葉にしたくないから、敢えてならないふりをしている
白い自動車に紅色が散った塾帰り
夜というのに蒸し暑くて蝉の声が煩かった
二十八作目「真夏の記憶」
やさしさなんていらなかった。
一刻も早く、こんな体躯に閉じ込められてしまった臓器達を解放してあげたい。
愛されないと死んでしまうが、反対に、愛されなければ死ねるのだ。
僕はずっと考えていた。
どうすれば生きたいと思えるか、そのために、どうすれば君に愛されるか。
容姿も言動も性格も、何もかもに気を遣った。
君の好みになりたかった、ただ、愛されたいが為に自己を捨て他人の理想に成り代わった、それが今の僕で昔の僕はまるで別人だ。
それでも塵屑は塵屑のままで変わらず、僕はいつまで経っても結局流れる血は変えられずその毒を巡らせ続けている。
だからもう辞めにしたい。
僕は演技が下手だから、それに思ってもないことをつらつら口に出せなかったし、相当な苦労を以て他人になった。
でも全部無駄だった、僕は幸せにはなれないから、君に愛されなかったから。
中途半端な好きも愛も要らない、やさしさなんて要らない、早く殺してよ、そしたらようやく、生まれてきたことを後悔しなくなるから
二十七作目「やさしさなんて」