もう、今日で終わりにしよう
ずっと前から決めてた事だから
今日で最後だ……
今日で終わりなんだ………
明日からはもう……………………
………でも、やっぱり明後日からにしようかな?
明日はずっと気になってた新作スイーツの発売日だし、明後日からでもいいよね……?
うん、そうしよう、明後日こそ甘いものは終わりにしよう
今度こそ、ダイエット頑張るぞーー!!
『(何度も繰り返される)終わりにしよう』
まったく、今思い出しても腸が煮えくり返る。
まさかこの俺があんな奴に負けてしまうとは……
俺がアイツに劣っているだと?ふざけるな。
たった一回勝ったくらいで、アイツに優越感など持たれてたまるものか。
絶対王者たる俺が劣等感を抱く事など、断じてあってはならないのだ。
明日の勝負では、何としても俺が勝ってやる。
俺の勝ちはもう決まったようなものだが、前のようなミスは決しておこさないようにしなければ。
まず、決して慢心しないこと。
次に、アイツの底力を甘くみないこと。
そして何より、どんなに美味しそうな人参があったとしても、絶対に食べない……いや、もし食べてしまったとしても安心して眠ってしまわないこと。
胸に闘志の炎を燃やしながら、俺-―ウサギは
明日に迫ったカメとのかけっこ勝負の再戦に向けて
体調を万全にすべく眠りについた。
『優越感、劣等感』
私の名は 進藤 琢磨。年齢は 45歳。
ここ、○×商事の第一開発課に所属する、冷徹無悲な敏腕 鬼部長として、皆から恐れられている。
最近配属された新入社員の櫻井も例外ではなく、
この間寝坊して遅刻した時は、切腹でもしそうな勢いで私のデスクに謝罪に来たものだ。
私は彼が何故寝坊したのかを知っている。
私への謝罪の後、休憩室で櫻井と他の部下が話しているのが耳に入ったからだ。
何でも、プレイ人口は少ないが、マニアなファンがついているスマホゲーム『○△戦記』のイベントの首位争いに夢中で、明け方までスマホにかじりつき、そのまま寝過ごしてしまったとか。その上、結局首位を逃し、優勝者しか獲得出来ない限定キャラも手に入れられなかったとは、なんともはや……。
そこまで思い返した後、私は自分のスマホを手に取り、手慣れた動作でアプリを起動した。
何度見ても見飽きない『○△戦記』のロゴが表示され、ホーム画面に何とか勝ち取った限定キャラの微笑みが写しだされる。
(今度あいつにフレンドコードを聞いてみるか…)
鬼部長のレッテルが剥がれる日が来るのも
そう遠くはないのかもしれない。
『これまでずっと、自分の素を出せなかった』
学校帰り
ケンカした 帰り道
頭に浮かんでくる
アイツの顔を
踏みつけるように歩く
ふと
鞄の中で間抜けな振動音
(今更謝ってきたって許してやんないから)
苛つきながら開いた トーク画面
一言
「空 見て」
見上げた先には
鮮やかな虹
(………ほんと、ずるいんだよなぁ)
『1件のLINE』