私の名は 進藤 琢磨。年齢は 45歳。
ここ、○×商事の第一開発課に所属する、冷徹無悲な敏腕 鬼部長として、皆から恐れられている。
最近配属された新入社員の櫻井も例外ではなく、
この間寝坊して遅刻した時は、切腹でもしそうな勢いで私のデスクに謝罪に来たものだ。
私は彼が何故寝坊したのかを知っている。
私への謝罪の後、休憩室で櫻井と他の部下が話しているのが耳に入ったからだ。
何でも、プレイ人口は少ないが、マニアなファンがついているスマホゲーム『○△戦記』のイベントの首位争いに夢中で、明け方までスマホにかじりつき、そのまま寝過ごしてしまったとか。その上、結局首位を逃し、優勝者しか獲得出来ない限定キャラも手に入れられなかったとは、なんともはや……。
そこまで思い返した後、私は自分のスマホを手に取り、手慣れた動作でアプリを起動した。
何度見ても見飽きない『○△戦記』のロゴが表示され、ホーム画面に何とか勝ち取った限定キャラの微笑みが写しだされる。
(今度あいつにフレンドコードを聞いてみるか…)
鬼部長のレッテルが剥がれる日が来るのも
そう遠くはないのかもしれない。
『これまでずっと、自分の素を出せなかった』
7/12/2022, 12:40:11 PM