笑っとき三日月みたいに
細くなるあなたの目を
拗ねたときひよこみたいに
とびでる唇を
照れたとき桜桃みたいに
染まる頬を
泣きそうなときビー玉みたいな
大きな涙を必死に我慢する
あなたを
記憶のなかで
永遠に願う
幸せを
また、会うときは
一緒に繋ごう
秒針は動かなくても
#20歳
あっち行った
こっちに行った
寒いな暑いな涼しいな
久しぶりに家に帰って
てんこ盛りの洗濯物
死にそうなサボテン
埃っぽくなった部屋を換気する
溢れそうなポストを整理した
大切なあなたからのハガキを見て
今年が終わるのだと気づく
いつの間にか年をとり
いつの間にか年が終わる
心は置いてけぼり
何かを願うまえに
何も整理ができていない
家は片付けたから
早く片付けなければ
掃除をしていたら
今年が来てしまったが
少し待っていて欲しい
そういえば、去年の目標が
遅刻なしだったことを思い出す
鉛筆をおいて
帰り八百屋で買ってきた蜜柑を
手に取った
後で考えよう
#新年
ダンボールいっぱいあったのに
茶色底がもう見える
一日三つだって
お母さんは言ったけど
約束を守らない泥棒さんがいる
皆んな手を出しなさい
検査が始まる
さて、犯人は誰かな
父、姉、兄、私、弟
みっけ、みっけ、みっけ、みっけ
皆んな指がオレンジ色
あれ、お母さん
よく見たら親指だけオレンジ色だ
#みかん
「大丈夫?」
心配そうな目であなたは私を見ている。
青い信号の前でいきなり止まったからだろう。
「あ、うん。ちょっとボーってしちゃって」
「風邪?具合悪いの?」
心配そうな声で聞きながら私の頬に触れた。
「風邪は無さそうだけど…」
深刻そうに眉間に皺を寄せる。
「また、遅くまでゲームした?
ちゃんと寝ないと体に悪いよ」
口を尖らしながら言う。
「キリが良くないとやめられないんだよね」
前を見るととっくに信号は赤になっていた。
早く寝ないといけない理由を
並べているあなたは気づいてないだろう。
青は進め、赤は止まれ。
歩道の信号機の様にシンプルだったら良いのに。
あなたはいつも車道の信号機。
青、黄、赤。
私も黄色なんだよね?
あなたはあなたを好きだから。
見返りを求める言葉だと知っている
私ではなくあなたのための心だと知っている
誰でもいいのを知っている
あなたと居ても私は一人。
あなたも誰といても一人。
#距離
灰色の空からは今にも雨が降りそうだ。
傘は持っていない。
頬の上に滴が流れる。
橋の上には雨宿り出来るところはない。
伸び切った袖で顔を拭うが、
灰色のコンクリートにひとつふたつ黒いシミが
出来たかと思うと全て染まるのは早い。
溝の様だ。
叩く様に強い雨と水を含んだ前髪で
あまり前は見えない。
丁度いい。
この後、ご飯の約束があるのだ。
早く済ませて行こう。
袋から長ネギをひとつ川に投げる。
ポチャン
次は大根かな。
ポチャン
次は…
ポチャンポチャン
ポチャンポチャン
袋が軽くなっていく
ポチャンポチャンポチャンポチャンポチャン
リズム良く投げるのがコツ。
あ、最後だ。
袋の中からボールを取り出した。
ぬるっとした感触が気持ち悪い。
暖かった時は良かったのに。
ボチャン
早く帰らなくては遅刻してしまう。
#もう一つの物語