日差し
眩しい太陽に高い湿度。毎年のことながら暑さにやられつつ、今日は外出出来ないなと思う。
最高気温41度。
祖父母の家のお風呂のお湯の温度くらいは暑い。
日差しも強く、あゆるものが日焼けしそうだからカーテンすら開けられない。
明日も暑いんだろうなぁ。
だから、わたしは明日もきっと外出しない。
君と最後に会った日
何か考えていたわけじゃないけど、
本当に、何も考えてなかった。
不用意に言葉が出て、
よくよく考えると失礼な言葉だったけど。
最後だと思わなかったから言ってしまった。
けど、最後だと分かってたら、
わたしは何を伝えたのだろう。
考えてもわからないことを時々考える。
日常&子供の頃は
6畳の和室と、窓から見える小さな庭だけが、わたしの世界の全てだ。
井の中の蛙。それがわたし。
部屋を出るなと厳命されているので、わたしの日常は大変つまらない。
わたしの部屋にやって来るのは、わたしの世話兼監視のための乳母と、時々兄。
本当は兄に会っては行けないみたいだが、兄は気にせずやってくる。
兄の来訪をいつも待っていた。
乳母はいい顔をしないけど、わたしは兄が来てくれないと暇で死にそうだから毎日来て欲しかった。
学校に通い始めると兄はあまり部屋にやってこなくなった。
わたしはもちろん何もせずに部屋にいろと言われているので、家の外どころか部屋の外にも出れない。
時々聞こえてくる、子供と思われる楽しそうな笑い声が、羨ましすぎる。ずるい。私もその会話に混ざりたい。そう思って妄想するも、どうしても外の子たちに混ざる自分が思い浮かばない。妄想の中くらい、わたしも友達が欲しいのに。
嫉妬心と諦めの、単調な日々。
そんな日常が、塀の上に現れた男の子によって変わった。
「頭がおかしくなるとまぼろしって本当に見るんだ」と感心してたら、「俺はまぼろしじゃねーよ」と返された。
兄よりも声が低くて、乱暴な言葉使いに驚いた。
びっくりしすぎて、そのまま倒れた。
体が熱いと思ったら熱があったみたいで、目が覚めた時には布団の中にいた。
さっきの男の子は、たぶん幻覚。
熱があったからだ。
「今日は元気そうだな」
「……わたし、今日も熱あるのかも。まぼろしが見える」
「だから俺はまぼろしじゃねーし」
倒れた日から三日たった今日。
男の子はまたやってきた。突然倒れたわたしの様子を見に来たらしい。
「ねぇ、せっかくだから何か話してよ」
「なにかって、なんだよ」
「楽しいとか、面白いこととか?」
「ないな」
「なんでないの?」
「じゃあ、お前はなんか楽しいことあったかよ」
「ない」
「そういうことだ。毎日同じことして、つまらねぇよ」
彼は定期的にやって来て、彼と話す時間だけは楽しい時間だった。
これが子供の頃のわたしの日常。
好きな色
何かと世の中理不尽だ。
誰だか分からない顔写真を気合いをいれて頭に叩き込み、目的地が大学であることに眉を寄せる。
「何したか分かんないけど、恨まれたくないっすよね」
車の鍵をクルクル回して、遊んでいる運転手が言う。
金髪に両耳に大量のピアス。眉毛もないし、明らかにチャラい男だが、非常に優秀な足運転手で、指揮官である。
「お前は沢山恨まれてそうだな」
「そうでも無いっすよ。親方はどうなんです?こんな仕事だし、恨まれてそうですけど」
「お前と違って俺は人と関わりが薄いから恨まれようがない」
「あー、親方は狭く深くの人付き合いですもんね。俺はどうしても広く薄くですもん。親方、ポジション変わりません?オレ、そっちも出来ますよ」
「悪いが俺はそちらは全くできない。適材適所だ」
そもそも記憶力が良くないので、情報収集したところで覚えてられない。
人が人を裁く時代は終わりを告げて、全てはAIによる判別に従うことに法律が変わった。裁判所もなくなり、全てはAI判定に委ねられる。大きな犯罪から、子供同士の小さな喧嘩まで、ありとあらゆるものを仲裁する。
個人情報保護法に基づき、NEWSとして世間に流れることもない。人が人らしく生きるために、ネガティブ報道は封印された。
時代遅れの死刑もなくなり、いい世の中と言える。
だが、犯罪は無くならない。
大小問わず日夜犯罪は起こりうる。
その問題を解決するためにAIが下した方法が、犯罪者の記憶削除からの人格矯正プログラム。
俺たちは写真と名前と居場所だけをAIから教えられ、そいつの記憶削除と人格矯正プログラムを実施に赴く。
対象が何をしたのかすら情報は開示されない。
「それよりも親方、そろそろ黒い服以外も買いません?怪しいんですよ。前回それで逃げ出したヤツいて、追いかけるの大変だったじゃないっすか。せめて、全身真っ黒はやめましょう」
「あれはお前のチャラい格好で逃げられたんだろうが」
「オレは普通です。……ちなみに黒以外持ってます?」
「ないな」
「なんで?」
「好きなんだよ、黒。汚れなくていい」
「……はぁ、今日は逃げられないといいですね」
そうして俺たちは多少暴れた大学生を問題なく確保した。
記憶を消されて、人格矯正されている青年を横目に、「ほら、黒は汚れないだろ」とドヤ顔で男が言った。
あなたがいたから
子供の目はとても雄弁だった。
置いていかないで、と。
思わず舌打ちした。一人だけなら、誰かに飼われる形で、生きていけるかもしれないと思っていたからだ。
それでも頭に浮かぶ未来は悲惨なものばかりだ。一人でも生きていくのに必死なのに、自分よりも年下の女の子を連れて行けると思えなかった。
するとすぐに子供の目がどんどん滲んでいく。泣くのかと思えば声も出さずに涙が零れていく。
自分で拭うこともせず、俺を見て立ち尽くす。
その涙が、とても綺麗だと思ったのだ。
嫌な未来がどうしても頭をよぎるが、置いて行くことも出来なくて、生き残るために考えていた計画は諦めて、俺はその子供の腕を掴んだ。
「行くぞ」
子供の反応を待たずに歩き出す。
後ろで「ありがとう」と小さな声が聞こえた。
戦争だらけだった世界は、何ひとついいことも無く、多くの国と人間に被害だけを齎した。自治なんてあってないような世界で、子供二人で生きるのは過酷だった。
それでも生きてこれたのは、多分一緒にいてくれたからだと思う。
「あなたがいたから、わたしは生きてられるの」
昔よりも雄弁に話すようになった彼女が言う。
「それは俺の台詞だな。一人だったら、俺は生き残れなかった」
互いにありがとう、と言い合って、そして一緒に笑った。